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Sep.

2020

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19 Mar. 2020

小さな継承の場をつくる~東日本大震災以降を生きる子どもたちと~

八木まどか
メディアプランナー
八木まどか

■子どもたちの9年間

 「語りの数だけ、聞き手がいる~東日本大震災後の“語りにくさ”を綴るアーティスト・瀬尾夏美さん~」 の記事において、より複雑化する被災地域の状況や声の受け止め方についてお伝えしました。その記事で紹介した、アーティスト・瀬尾夏美さんと映像作家・小森はるかさんが、今、取り組んでいるのは「子どもたち」による震災の継承するプロジェクトです。

瀬尾夏美さん(左)、小森はるかさん(右)
(2019年3月、仙台市にて撮影)

 

 子どもたちと言っても、特に、震災当時に就学していた被災経験者、あるいは当時、被災とは縁が遠いと感じていた子たちに注目しています。たとえば、今20歳の若者は9年前が小学4年生か5年生。

 子どもたちに注目する理由は大きく2つあります。まず、震災を経験した子どもたちにとっては、発災当時、その衝撃的な出来事を外に出す言語が少なかったり、親たちを気遣ったりして語れなかったことが、7年~9年経ち、改めて語ることができるようになる時期だからです。

 一方、震災の影響が少ない地域にいた子どもたちは、「あの時は何もできなかったのに、自分が震災に関わってもいいのか」と思い続けるものの、同級生や友人とは、震災のことをあまり話せずモヤモヤを持つ人もいるとわかってきました。

 筆者は、小森さん、瀬尾さんが2018年~2019年に制作した映画「二重のまち/交代地のうたを編む」を2月に開催された第12回恵比寿映像祭で鑑賞しました。災害だけでなく、さまざまな経験を持つ人と交わる機会が、ますます日常的になる現在。「自分は当事者ではない」と感じる人が、相手の経験を想像し、さらに誰かに伝えようとするプロセスの一つのケースとして、ご紹介します。

 

■「想像できない」ほどの経験を聞く

小森はるか+瀬尾夏美「二重のまち/交代地のうたを編む 」
提供:小森さん、瀬尾さん 撮影:森田具海

映画「二重のまち/交代地のうたを編む」ダイジェスト版動画

 

 映画「二重のまち/交代地のうたを編む」は、2011年当時、小学生~高校生で、震災の影響が少ない地域に住んでいたので「自分は当事者じゃない」と感じている、4人の若者が主人公。彼らが、旅人として岩手県陸前高田市を訪れ、震災を経験した方々の話を聞き、それを自分たちなりにどう他者へ伝えることができるのか、15日間模索した様子が描かれています。

 陸前高田市は、震災当時、約2万2000人の住民のうち2000人近くの方が亡くなり、また、東北地方沿岸部の中でも特に大規模なかさ上げ工事が行われている地域の一つ。津波で建物が流された土地の上に、最大12mもの土を盛って作られた「かさ上げ地」には、今は新しいショッピングセンターや住宅などが並ぶものの、少し歩けばまだ工事中の土地や、更地のままの場所も。そのような激しい変化が、震災当時からまだ現在進行形の町です。

 4人の若者たちにとって、陸前高田で震災経験者から直接聞くことは、思った以上に「しんどい」ものでした。

 たとえば、津波で子どもを亡くした親の話。消防団として避難誘導中に見かけたおばあさんを助けられなかった話。震災当時の小学校で多くの友人と、お別れの時間もなく離れ離れになった話。

 実際に、「聞いた話や自分の思いを、4人の仲間に吐き出しながら過ごさなければ、身が持たなかった」と制作後に語った出演者もいました。

 だからこそ4人は、経験者の話をどう取り扱っていいのか悩む様子がカメラを通して映し出されます。あまりに壮絶な経験なので想像が追い付かずどうすればいいのか、自分が聞いてしまっていいのか、ちゃんと受け取れているのか…さまざまな葛藤が生まれたようです。

 4人は最終的に、瀬尾夏美さんが書いた「二重のまち」という物語の朗読を通して、自分たちなりに、受け取った話を他者へ表現しようとします。「二重のまち」とは、震災から20年後の2031年の陸前高田に暮らす人々を想像して、瀬尾さんが制作したテキスト作品でした(※1)。

小森さん、瀬尾さんがシンポジウムで作品を紹介
(第12回恵比寿映像祭「時間を想像する」、会場:東京都写真美術館)

 

 私は、出演者の一人・三浦碧至さんが朗読をする前に語った言葉が印象に残りました。「すべてをわかることはできないけれど、想像はしてしまう。するなら、丁寧にしたい」。

 映像中、彼らの声で読まれる物語や、彼らが語る被災経験者のエピソードが、9年間の中でも特に心の深くまで届いた気がしました。マスメディアを通して、何度も震災について見聞きしたはずだったのに、なぜだろうと考えた時、4人の若者たちが、完璧に想像はできないし、聞いた話をすべて受け止められないけれど、ただひたすら、丁寧に伝えようとしてくれたからだと感じました。

 

■さまざまな、小さな伝え方もある

 そもそも、小森さんと瀬尾さんがこの作品を2017年頃から作ろうと思った理由は、当事者だけでなく、「当事者ではないと感じている人」によっても語られる時期が来ていると考えたからです。被災地域はもとの町を思い出すことすら難しいくらい変化し、また、時間経過とともに震災を知らない世代も増えていく、このタイミングしかないと。

 その一方、「たくさんの、伝えようとする人たちに出会った」と出演者の一人、古田春香さんは作品中で語りました。また、4人に話をした陸前高田の人たちへの、事後インタビューをもとにした文章を読むと、「聞いてくれてありがとうね」と言った人もいました。このように、プロジェクトを通して聞き手と語り手が交換できるものがあったようです。

小森さん、瀬尾さんによる作品展示
「二重のまち/四つの旅のうた」2020年制作
(第12回恵比寿映像祭「時間を想像する」、会場:東京都写真美術館)

 

 瀬尾さんたちは制作後に「継承というと、〈100年後まで教訓を伝える〉といった大きな仕組みのイメージがあり、強いインパクトをもつ出来事ばかりが残りがち。でも実際の人の心にある、たくさんの迷いや戸惑いを残すことも大切だと思う。相手と安全な場を作り、丁寧に聞いた話をまた誰かに伝えたくなるような、小さな数珠つなぎのような継承もあるのでは」と語りました。実際に、旅を終えた4人は、自分が住む町に帰って、さらにどう伝えるか考え続けています。中には、まず家族や親しい友人に話した人もいれば、歌を作った人もいました。

 瀬尾さん、小森さんは今後も、当事者ではないと感じている子どもたちと一緒に作品を作るつもりです。なぜなら彼らは、震災に限らずさまざまな事柄も巻き込みながら、同時代に生きるあらゆる人たちとの接着剤の役割を担えると考えているからです。

 

 

☆作品紹介

「二重のまち/交代地のうたを編む」

2019年/79分/小森はるか+瀬尾夏美

出演:古田春花、米川幸リオン、坂井遥香、三浦碧至

作中テキスト:瀬尾夏美

ワークショップ企画・制作:瀬尾夏美、小森はるか

撮影・編集:小森はるか、福原悠介

録音・整音:福原悠介

撮影助手:佐藤風子、森田具海

スチール:森田具海、布田直志

制作進行:清水 翼

 

(※1)

「二重のまち」(瀬尾夏美)のテキストは以下のリンクから読むことができます

瀬尾夏美さんnote: https://note.com/seonatsumi/n/n239dd9ae73b3

 

 

 

取材・文: 八木まどか
Reporting and Statement: yagi

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