「愛着」を通して考える、人と人との関係性
- プランナー
- 大塚深冬
こころの絆を結ぶとき
人と人、そのふれあい方に変化が起きています。新型コロナウイルスの脅威は、日常生活や企業活動中で、人と人、体と体、心と心のつながり方や関係性に大きな変化をもたらしています。
7月初旬、「愛着から考えるこどもとの『こころの絆』の結び方 ~ウィズコロナ 家族の在り方が変わる今だから伝えたいメッセージ~」というウェブ講演会がFood Masters College愛着について普及する会※の主催で行われました。本講演会の講師は愛着問題の専門家で和歌山大学の米澤好史先生※で、特に「親子の関係」における愛着問題について語り、理解を深める機会となりました。(※Food Masters College愛着について普及する会と、米澤先生のプロフィールは本記事最下部に記載)
筆者は愛着の問題に詳しくはなかったのですが、ある縁で本講演に参加することで、愛着が人と人との関係性について理解を深めるヒントになることを知り、ココカラーを通じてその気づきをお伝えしたいと思います。
愛着障害とは?
その特徴は?
早速ですが、愛着障害とはなんでしょうか。
「愛着障害」とインターネットで検索すると様々な説明や考えが紹介されていますが、本講義と記事を通して伝えたいことは、愛着障害は“関係性の障害”であるということです。関係性の障害といわれる愛着障害には、「愛情欲求行動」「自己防衛」「自己評価の低さ」という3つの特徴(※1)があります。
(※1:愛着障害の3大特徴)
次は、愛着障害を“ありがちな誤解”を使って説明します。
●「愛着障害は施設や虐待だけで起きるもの」という認識がありますが、どんな家庭でも起きえます。
●「愛着障害は産んだ親のせい」という認識も正しくありません。
●「愛着障害は取り戻せない」も誤解であり、愛着障害はいつでも取り戻せますし、
●「愛着は親にしか形成できない」ことはなく、誰にでも形成でき、修復できると可能と考えられています。むしろ、親子関係による愛着障害は、親以外の誰かと先に愛着を形成してから、親との愛着修正する方法が勧められることもあります。
このほかにも、愛着障害は英語でAttachment Disorder(AD)とアタッチメント障害といわれますが、注意欠陥・多動性障害(ADHD)と、自閉症スペクトラム障害(ASD)という二つの発達障害と間違われることが多いと米澤先生は指摘します。ここからわかることは、一言に「愛着障害」といっても、正しくない認識が広まることにも問題があると考えられます。
では実際、どれくらいの人が愛着障害を抱えているのでしょう。米澤先生によると「低く見積もっても、どんな集団にも1割は愛着障害をもっているし3~4割の場合もある。愛着障害のこどもの数は年々増加している傾向にある」ということですから、愛着障害に詳しくなかった私は、この言葉にドキッとしました。
正しい理解が第一歩
突然ですが、ここでクイズです。愛着の問題に関するクイズとして本講演で出題されたものを出題しますので、嘘か本当か、ご自身で考えみてください。
(愛着の問題に関するクイズ)
クイズの解答はおわかりでしょうか。実際の本講演では米澤先生は一つ一つのクイズに対して解説されたのですが、この記事では答えだけをお伝えしてしまうと、答えはすべて嘘。つまり、上記はすべて誤った認識ということです。愛着障害にまつわる誤解を解きながら、次は愛着の形成に関する話に移りました。
愛着形成に大切な
「3つの基地」
愛着形成には「3つの(こころの)基地機能」が必要という話が非常に印象的でした。その3つとは、「安全」「安心」「探索」です。
(愛着形成に大切な3つの基地)
「安全基地」は、恐怖不安怒りなどネガティブな感情から守る認知と行動の基地で、困ったときに頼ることができるところです。「安心基地」はポジティブな感情を生じさせる感情の基地を指し、一緒にいると良い気持ちになるところを指します。そして、「探索基地」はポジティブ感情」が増加して、ネガティブ感情が減少する基地であり、求めるたり確認したりするところといえます。例えば、「今日こんなことがあったんだよ」と話せるような場所です。
「基地」を探す、「基地」になる。
大人も子供も目に見えないウィルス感染への不安、経験したことのない生活変化への不安、外にいけないストレスや発散の場のないことなど、新しい生活様式への順応が様々なシーンで求められています。
弱いものやぶつけやすい対象に不安やストレスを向けてしまうのは、家の外でも生じる問題です。例えば、行政による外出や営業などの自粛要請に応じない個人や商店などに対して、私的に自粛を求める「自粛警察」に関するニュースを見聞きされた方も多いのではないでしょうか。自粛警察の例も、「どこかで人の上に立ちたい」という愛着障害にある“優位性論”が影響しているという話も、本講演にはありました。
愛着とは、人の気持ちや感情が発達していく基盤であるという米澤先生は言います。その愛着の形成には、こころの「基地」を持てることが重要です。この「基地」とは「特定の人」の時もあれば、「自分にとって大切な活動やモノ」も基地になりえます。
講演会の後半で、「思春期の子どもとの関わり方で大切にした方が良いこと、見守り方を教えてください」という質問が参加者からありました。思春期は親から自立する準備をする時期のことで、探索基地の段階といえます。子供の探索を支援してあげるために、報告をもらえるような関係を構築するのが大事になります。例えば「報告しなさい」という言葉ではなく、相手が何をしたかを自然に話せる環境をつくってあげることが、親としてできることだというアドバイスがありました。
感情の発達や精神的な自立、その基盤となる愛着を形成するためにも、そして、新しい生活様式と呼ばれる今の状況に順応し乗り越えるためにも、「基地」を探すことと「基地」になることの大切さを考える機会となりました。
(集合写真:左上から米澤先生と根岸様、左下筆者)
■米澤好史先生のプロフィール
和歌山大学教育学部先生。臨床発達心理士、学校心理士スーパーバイザー、上級教育カウンセラー、ガイダンスカウンセラー。専門は臨床発達心理学・実践教育心理学(こどもの理解と発達支援・学習支援・人間関係支援・子育て支援)。日本教育カウンセリング学会理事、日本教育実践学会理事・教育実践学研究編集委員長、日本学校心理士会常任幹事、日本臨床発達心理士会幹事、関西心理学会役員(委員)。日本学校心理士会和歌山支部長、和歌山県教育カウンセラー協会会長、日本臨床発達心理士会大阪・和歌山支部幹事、和歌山市男女共生推進協議会会長、岸和田市子ども・子育て会議会長、摂津市子ども・子育て会議会長として、社会的活動を行う。
■一般社団法人Food Masters College 愛着について普及する会
『“愛着”の大切さをお伝えすると同時に、実際に、愛着形成をしていく際のポイントやヒントをわかりやすくお届け 』することを目指し、愛着問題の情報発信、インタビュー記事の発信、愛着に関係するセミナー開催などを行っている。(代表:根岸葉槻)公式HP・Facebook ページ
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