2020年に向けて「対話」と身近に向き合う新しいプロジェクトが始動。 – インタビュー編 –
- プランナー
- 吉澤彩香
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会まであと2年。開催国東京が世界から注目されるタイミングで、多様性が重視される日本社会の実現に向けて、様々な施策やプロジェクトの準備が着々と進んでいます。
2020年に向けてミッションを掲げているプロジェクトの一つである、「DIALOG IN THE DARK」は、コミュニケーションの大切さを、暗闇の中での「対話」によって感じてもらうという、暗闇のソーシャル・エンターテイメントを展開しています。1988年にドイツで生まれたプロジェクトは、これまで世界41ヵ国で展開されており、日本では1999年から、開催されるようになりました。対等な「対話」をエンターテイメントとするプロジェクトを日本で初めて開催し、代表を務める志村真介さんと理事の志村季世恵さんに、2020年に向けての展開についてお伺いしました。
≪ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパン 志村真介代表≫
変化するコミュニティのありかた
ここ数年で、コミュニケーションのカタチは変化し、SNSに象徴されるように、自分にとって「いいね」をもらえる人の小さなコミュニティが無数にできています。実生活では、SNSやリアルでも気に入った人としか交流することが無い状態となり、この状況は、自分自身を満たすことはできますが視野は狭くなります。しかし、自分とは異なる人と交流することで、化学変化が起きたり、自身の視野が拡大し成長できるものです。
2020年に向けて、常設ミュージアムを開設
日本は、点字ブロックやエレベータ―の設置数、音声案内の整備状況などを始めとする障害者にとって重要な機能である“ハード”部分のホスピタリティレベルが非常に高い国です。
しかし、それらを必要としている人たちが街に出ていないことも事実です。前回の東京オリンピック・パラリンピックでは、インフラなどの“ハード”な部分が改革されたので、2020年は、 “ソフト”の部分に注目し、暮らしのコミュニケーションが豊かでインクルーシブな世の中にするためにも「人々の関わり」を急速に醸成させるべきです。そして、大会期間終了後も、みんなの笑顔が続くように、常設ミュージアムを2020年に開設予定しています。
未知の文化と出会える空間
常設ミュージアムでは、“対話する”ことに特化した3つのエンターテイメントプログラムを提供予定です。
1つ目は、ダイアログ・イン・ザ・ダーク(以下:DID)という、暗闇の空間です。視覚障害者の方がアテンドとなり参加者のグループを誘導していきます。何も見えない環境をつくることで、役割や立場が違ったり、社会的弱者といわれる人も、みんなが対等な立場となってリセットされた状態になります。暗闇の中の対話によって、心を開き、新たな発見や出会いがあります。
2つ目は、ダイアログ・イン・サイレンス(以下:DIS)という、静けさの中の対話を楽しむ、音の無い空間です。アテンド役を務める聴覚障害者の方は、表現力がとても豊かです。口語を使わずに表情だけで対話することで、聞こえない人の豊かな文化がみえ、言語の壁を越えたコミュニケーションを体験することができます。
3つ目の、ダイアログ・ウィズ・タイム(以下:DWT)は、時間や命をテーマとした空間です。70歳以上のアテンドによって、今感じる幸せや、年を取ることの素晴らしさを、知恵ある人との対話を通し体験できます。
この、見えない、聞こえない、歳を取るという、全てネガティブに感じることを、当事者たち(アテンド)に出会うことで、「だからできない」ではなく「だからこそできる」という見え方ができ、その概念が覆されます。そして、これらをこれまでの福祉的なイベントではなく、“エンターテイメント”として展開していき、暗闇や静けさという普段には無い環境だけではなく、人との関係性、ソーシャルキャピタル(社会関係資本)を醸成させる場所にしたいと思っています。ミュージアムといっても展示品は無く、参加者が違う文化と出会うことで、新しい自分と出会うことが展示品となりますので、東京という都市の中で未知の文化と出会える空間を体験してほしいです。
既成概念を払うことでお互い発見する
これら3つのコンテンツは、DIDの創設者である、アンドレス・ハイネッケが全てのコンテンツを管理しています。DIDはこれまで世界41ヵ国以上で展開され、日本以外の国では、ドイツで開発されたコンテンツをドイツ仕様のまま展開しています。一方、日本において日本オリジナルコンテンツの展開が特別に許可されているのは、日本人の感性が豊かで、五感が優れているからです。またそのオリジナルコンテンツを世界で一人、これまで4万人もの心の病やトラブルをポジティブに戻してきた実績を認められたバースセラピストの志村季世恵に一任しています。日本では、人とは違わないことが美学となっているようにみえますが、これまで出会わなかったような、年齢性別役職などもバラバラな8人から10人が一緒になり体験を終えると、一つのコミュニティがあっという間に醸成されています。
アテンド役を務める人は、目が見えない、耳が聞こえない、70歳以上のどれかの条件を満たしているかが応募条件です。「助けられる」という立場だった人が、「助ける・楽しませる」という立場になりますので、アテンドのトレーニングを様々な形で行いますが、まずは概念を変えることなどのトレーニングで、アテンドの方はまったく別人のように輝きます。また、彼らは、“ありがとう”と言う(表現する)ことがとても上手で、普段から学ぶことがたくさんあります。ダイアログは、アテンドも、体験者も未知の世界。だから“みんなそれぞれでいいんだ”という、自己肯定感が高まると、相手を受け入れやすくなります。ダイバーシティやインクルーシブを勉強するよりも、具体的に人と出会うことで、自己肯定感が上がり、相手を完全に理解しなくても、相手を受け入れることができます。
以前、ある地域の盲学校と普通の学校の子供たちがDIDを通して交流する場をつくりました。目の見えない子は、暗闇に入ったことで、いつもはスーパースターのよう思っていた健常者の生徒たちが、いつもよりゆっくり動いていることに気づき、健常者の生徒たちは、暗闇でもいつも通りに行動する視覚障害の生徒たちの凄さに驚いたということがありました。環境がかわることによって、価値が逆転するなかでお互いを思いやる力が生まれることを、子供たちから感じました。
日本の社会課題を対話で解決したい
日本の子供たちが世界で一番孤独を感じていると世界の幸福度調査の結果にも出ています。
(参照:https://www.unicef.or.jp/library/pres_bn2007/pdf/rc7_aw3.pdf)
「助けて」と言えずに「頑張る」という風習が学校教育に根付いていることが社会課題と感じています。人を区別したりする概念がついてしまう前に、フラットな体験をしてもらうことで、暗闇の中で本当のことが言えるようになったり、自分を開示できるようになるなど、孤独を感じている子供たちを助けていけるのではと思っています。また、日本に対して思うのは、大人や企業が変わっていくことが必要です。「出来ないことをできるようにならなければ」、「ゴールを達成しなければ認められない」という日本社会の状況があり、それは障害者だけでなく、大人も子供も大変な状態になっています。このプロジェクトを通じて気づけることは、何かを頑張ることではなく、そのままの自分で充分に価値があるということです。今のそのままで関われることが素晴らしく、“違いに価値がある”ことを“対話”を通して広めていきたいと思っています。
志村真介さん、志村季世恵さん、ありがとうございました。
お話をお伺いしても非常に興味深く、未知の体験であること間違いなし。
なんと実際に、DIDとDISを体験させていただきました!
記事の後編では、その体験に関してお伝えしたいと思います。
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