-LOVE&EQUALITY すべての愛に平等を- 東京レインボープライド2018 レポートvol.3
- メディアプランナー
- 八木まどか
ストライプインターナショナルによるパレードの様子。
第1回引き続き、第2回でも東京レインボープライド2018に出展していた企業ブースの様子をお伝えしてきました。最終回である第3回は、ストライプインターナショナルと渋谷区のブースをご紹介し、昨今のダイバーシティ施策の傾向について考えます。
3回目の出展となる株式会社ストライプインターナショナルのブースでは、「Eat your color」をテーマにカラフルなアイスキャンディーを提供していました。同社では2016年からLGBTに関する取り組みを強化しています。今年は同社のブランド「earth music&ecology」から、トランスジェンダーMtF(※1)でドキュメンタリー映画『女になる』の主演・中川未悠さんをモデルに、大きなサイズのかわいいデザインの浴衣を発表しました。同社では1年に一度「浴衣デー」を実施しており、社員の方々が全員浴衣で出勤するそうです。浴衣の多くは男女でデザインがはっきり分かれていますが、浴衣デーの様子を見た方から「背が高い自分も、ラブリーな浴衣を着てみたい」という声がありました。それを聞いた社員の方が、ユニセックスやジェンダーフリーだけではなくて、背の高いMtFの方やメンズでも華やかでキュートな柄を着こなしたい方などが、かわいく着こなせる浴衣をつくろうと思い、実現したそうです。また同社は今年、パレードに初めてフロート(※2)を出展。新作の浴衣を着た中川さんと、石川康晴社長がフロート車に搭乗し、社員80人がパレードに参加しました。
ストライプインターナショナルのブースにて、右が人事本部ダイバーシティ推進室の二宮朋子さん。
「弊社では、CSRレポートにも会社としてダイバーシティに取り組んでいくと明記しています。毎年、レインボープライドに参加することで社内でもかなり意識が高まってきたこのタイミングで、トップが自らフロートに乗れば、広くダイバーシティに取り組む姿勢を表明することができると思い、提案しました」(人事本部ダイバーシティ推進室の二宮朋子さん)
多くの社員の方々が浴衣を着て参加した同社のフロートは、華やかでインパクトがあり、同社のメッセージを強くアピールしていました。
※1…「Male to Female(男性から女性へ)」の略称。「生まれた時の身体の性別」が男性で、「心の性別(自分は男だ、女だという性自認)」が女性である人
※2…各企業によるパレードの列
渋谷区のブースでは、「渋谷区パートナーシップ証明」についての、法律の専門家による無料相談会を行っていました。昨年、初めて行ったこの無料相談会には40件近くの相談があり、そのなかから実際にパートナーシップ証明の申請に繋がった例もあったそうです。まだまだ制度の中身がよくわからないという声が多く聞かれたので、正しく理解してもらうために今年も相談会を開いたとのことでした。
渋谷区のブースにて、ダイバーシティ推進担当課長の永田龍太郎さん。
渋谷区役所総務部男女平等・ダイバーシティ推進担当課長の永田龍太郎さんが渋谷区と他自治体のパートナーシップ制度のちがいを、教えてくれました。「他自治体の同性パートナーシップ制度は、条例ではなく要綱に基づき、宣誓書を提出し受領証を交付するタイプです。一方、渋谷区が条例に基づいて交付するのは、同性パートナーどうしの二人が公正証書で交わしたパートナーシップ契約に基づいて発行する証明書。つまり、法的裏付けのある公正証書をベースにしているのです。」
渋谷区での申請には「任意後見契約に係る公正証書」(若いカップルなど、必要性が低いと判断した場合にはこれを省ける「特例」あり)と「当事者間において区規則で定める事項についての合意契約の公正証書」の2つの公正証書が必要になります。
渋谷区の同性パートナーシップ制度が可決する以前から、すでに一部の同性カップルのあいだではこの公正証書によるパートナーシップ契約が行われていたということもあり、渋谷区では「証明書の発行にあたっては、二人の関係性のエビデンスを確認する必要がある」と考えました。公正証書に基づいている渋谷区の証明書は、「同性カップルに向けた対応ルールをつくるにあたり依拠しやすい」と企業からも評価されています。実際に、2015年に渋谷区の制度がスタートしたことで、この証明書に基づいて、生命保険会社が保険金受取人に同性パートナーを指定できるようにしたり、同性カップルで住宅ローンが組めるようになるなど、企業の対応が一気に進んだそうです。条例によって、同性カップルだからと賃貸の入居を断られるなど差別された場合、区が是正勧告のうえで事業者名を公表することもできるようになりました。
ちなみに、申請に必要なこれらの公正証書を作成するには5万円ほどかかりますが(HPでは詳細な手引書と公正証書のひな形がダウンロードできます)、実態調査で取得者にインタビューをしたところ、費用に対するネガティブな意見はほとんどなく、むしろ公正証書がベースにある渋谷区の証明書が与える生活の安心感から満足度が高いことがわかったそうです。そのため、公正証書は全国どこに住んでいても取得できますが、証明書を求めて渋谷区に転入した人も少なくないそうです。
【各企業の姿勢がより具体的に、より本質的な方向へ】
これまで紹介してきたように、初出展の企業がいくつも見られましたが、その出展の動機は「社内の意識を高めるため」「今後の取り組み強化に向けてのきっかけづくりのため」という声が主に聞かれました。社内の意識が十分に高まってから出展するのではなく、今取り組まなければ社会的に置いて行かれるというような、いい意味での危機感が高まっているのかもしれません。
さらに、各企業がアイデアをしぼって自社の取り組みをアピールしている姿も印象的でした。スターバックスやセブンイレブン、ソニー・インタラクティブエンタテインメントのように、多くの人にとってもともと身近なものをレインボーデザインにすると、みんなが気軽にアライを表明しやすくなるという様子もみられました。「何かアクションをしたいが、何をしたらいいかわからない」「やっぱり抵抗がある」という人々の心のハードルを下げていくことができるのは、こういった商品と連動した施策ならではだと思います。
ラッシュやビズリーチのように、セクシュアリティだけにとどまらず、「働き方」にもフォーカスすることで、より広い意味でダイバーシティ&インクルージョンというテーマを考えさせるブースが散見されたのも、今年らしいと感じました。働き方・生き方自体の議論が活発になっている昨今の時代の流れとリンクするとともに、LGBTの課題をすべての人が自分事化するインクルージョンの視点も加わっているのでしょう。
イベント動員数が増え続けるのと同時に、ブースの出展数も年々増えるレインボープライド。各企業ブースの取材を通して、セクシャルマイノリティへの支援、ダイバーシティ&インクルージョンへの企業の意識はより具体的に、そして本質的な方向へ向かっているようです。
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