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Sep.

2019

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20 Aug. 2019

会社の中の「ふだん」に潜むモンスターを攻略?「ふだんクエスト」

「今度『ふだんクエスト』っていう社内イベントがあります。最先端の取り組みだから、ぜひ参加してください」

ざっくりとした案内をいただき、「ふだんクエスト?電通社内?最先端のイベント?」と頭に疑問符を浮かべたまま自治体研修生チームで参加することにしました。

8月7日(水)、電通ビル14階センターステージ前に集った参加者の中には、「名前だけ聞いて面白そうだなと思って。何をするのかは全然わからないですけど」という人もいて、ゆったりとした雰囲気の中、イベントの趣旨説明が始まりました。

この「ふだんクエスト」は、私たちがふだん暮らしている電通オフィスに潜む課題をモンスターに見立てて、インクルーシブな視点でモンスターを発見するワークショップ。障害の当事者とともに疑似体験をすることで、会社の課題を知ることを目的としています。当事者として、株式会社19の浅野さん(後天性の弱視)、儀間さん(弱視)、岡村さん(車いす)にご協力いただき、当事者3名がいるチーム、当事者がいない疑似体験者だけのチームに計6チームに分かれ、電通ビル1階と14階のクエストに出発しました。

私たち自治体研修生は、当事者のいる車いすチームと全盲チームに参加。

岡村さん率いる車いすチームは、14階で煙草を自販機で購入後、喫煙所で煙草を吸うミッションから取り掛かりました。車いすで岡村さんについて移動をしたのですが、とにかく早い!追いつかない!!14階の毛足の長いカーペットは車いすで走行するには抵抗が強く、反対にフローリングだとスムーズに進めることを自分の身体をもって体感することができました。そしてようやくたどり着いた煙草の自販機。いざ購入しようと思ったら、車いすに乗っているとお金の投入口にも煙草の選択ボタンにも手が届かない。仮に煙草を持っていたとして、喫煙所に入ろうと思ったら入り口が狭く、床に置いてあるゴミ箱がとても邪魔だということに気づきました。岡村さんはヘビースモーカーということだったので、公共の場で煙草を吸うのはさぞかし大変だろうと「車いすで新幹線の喫煙ルームとか狭すぎて入れないですよね?」と質問したところ、「そこはどうにかして入れるんですよ。喫煙者の執念というか」とおっしゃったのでびっくり。喫煙所に限らず、不便なことは多くても経験と工夫でなんとかなることもあるのだとクエストの端々で教えられた気がします。

その後エレベーターで1階に移動し、フラッパーゲートを通過。回転ドアや重たい金属の扉を開けたり受付でQRコード付きの入館証をもらったりしながら、電通社内に蔓延るモンスターと格闘し、ミッションクリアを目指しましたがタイムオーバー。

一方、疑似体験者のみの全盲チームは、アイマスクで視界ゼロ&白杖を片手に、新橋駅側の1階入口からスタートしました。私のミッションは「回転扉を抜け、受付で入館証を貰う」こと。いきなり「回転扉」が立ちはだかりました。視界ゼロの中、ゴウンゴウンと音を鳴らしながら回る扉はまるで魔王城の入口。「えいやっ」で飛び込んだら、センサーが作動し回転を止めてくれましたが、視界ゼロで回転扉を通る恐怖は、何ものにも例えがたいものでした。その後エントランスホールを受付に向かって進みましたが、道標がなく、まるで果てしない砂漠の中を歩いているような感覚に。ここに点字ブロックや音声案内があったら、孤独を感じず進めるのかなと考えながら歩きました。受付ではスタッフの方に入館証の発行を依頼し、入館証のQRコードの位置まで丁寧に教えていただき、体験を終えました。

チームメンバーと交代し、いざ14階へ!と思いましたが、ここでも立ちはだかるモンスターが現れました。エレベーターのボタンが何処にあるのか分からないのです。杖と手を駆使してボタンを探し、何とかエレベーターを呼ぶことに成功。しかし続けて次のモンスター「降りてくるエレベーターはどこ?」「何階のボタンを押しているか分からない」が行く手を阻みました。

全盲チームでは他にも自販機やATMを操作するミッションを体験し、無事?にミッションクリア。

クエストの道中「こんなところにドアの回転を止めるボタンがあったんだね」「車いすの人でも押せるボタンがあるエレベーターは10機中2機だけなんだ」「どこにトイレがあるのかサインがわかりづらいよね」と言い合いながら、疑似体験を通して、ふだんの生活の中では気付かない障壁を発見し、そこに直面した時の恐怖感や孤独感を自分事として感じることが出来ました。

 

モンスターの巣窟?電通に潜むモンスターたち

クエスト終了後はそれぞれが発見したモンスターを「モンスターシート」に記入。モンスターの名前や姿にそれぞれの個性が出ていて、笑い合いながらも真剣に見つけた課題を発表しました。同じコースを歩いているはずなのに、チームの中でも感じたポイントは様々で、たくさんのモンスターが生まれていました。

その後、モンスターマップに各チームから持ち寄ったシートを配置。まさに社内はモンスターが跳梁跋扈!車いすでは利用しづらい施設の構造であったり、全盲や弱視では認識できないサインであったりと目に見えてわかるハードなモンスターだけでなく、「目が見えないと自販機でも飲みたいものを選ぶことができないんですよ」「車いすで手が届く範囲のものを仕方なく買うこともありますね」という『選択の不自由』をもたらすモンスターの存在が印象的でした。

施設や自販機の構造を誰でも使いやすいものに改善していくことは、お金と時間をかければいつかはできることだと思います。でも、ドアや自販機の前で逡巡している人に遭遇した時、「どうしましたか」「なにかお困りですか」とひと声かけることで課題は一気に解決するのではないかとも思います。

今回社内をクエストしている最中、重い扉を開ける手伝いをしてくれた方はいたものの、声をかけてくれる方はいませんでした。何かイベントをしているのかな、ということで見ていた方がほとんどだったとは思いますが、そこに『無関心』というモンスターの影を感じずにはいられませんでした。車いすでエレベーターを待っている時、混みあったエレベーターを何回もやり過ごしながら「このまま永遠にエレベーターに乗れないのでは?」と思いました。もし誰かが「この車いすの人は、どれくらいエレベーターを待っているのだろう」と想像してくれたなら、ひょっとすると「お先にどうぞ」と譲ってくれたかもしれません。「モンスターシート」を記入している時、当事者である岡村さんが「ソフト系のモンスターがいても良いんじゃないかな」とそっと呟かれました。それは当事者以外の『無関心』や『無知』が一番の課題であることを暗示していたのではないかと思います。

 

無関心モンスターを撃退せよ!ふだんクエストから気づいたこと。

今回ふだんクエストに参加して、ふだんの行動では見落としがちな課題をたくさん見つけることができました。当事者と一緒に行動することで初めて気づいた課題もありましたし、当事者がいないチームでは、いろいろと想像を巡らせて見つけた課題もあったと思います。当事者の数だけ、参加者の数だけ、そして人の数だけ様々な課題が存在します。事前に想像していた課題を、当事者の方が経験によって難なくクリアしていく姿に驚きもしましたし、当事者の方が「なるほど!」と唸るような課題を見つけたチームもありました。何よりもクエストを通して、今まで知らなかったことを自分の身体を通して発見できたことが一番楽しかったように思います。障害の疑似体験を通して課題を見つける、という取り組みはどちらかというと真剣になりすぎて深刻になってしまうような気がしていましたが、クエスト的要素を取り入れることで、前のめりになりながら興味や関心を高めつつ、面白く考えるというマインドを持つことができました。

そして印象的だったのが、参加者全員でモンスターを紹介しあいながら、それぞれの立場で課題に対する解決策を提案していたことでした。アートディレクターの方は「全体的にサイン計画を見直したほうがいいかもしれない」と話していましたし、施設の管理に関わる方はハード面の課題を真剣に洗い出していました。クエストに引っ張られた楽しい雰囲気のなか「ポジティブな解決策を見つけよう」という気持ちをそれぞれが持ち帰れたのではないかと思います。

私たち自治体研修生にとっても、ふだんクエストを通して自分の地域の課題をどう解決していくかというヒントを得ることができました。福祉関連のイベントを開催する時など、当事者とその家族以外の参加者がなかなか集まらないということが多々あります。でもふだんクエストの手法は、学校や公共施設、そして家庭単位でも、誰もが自分の身体や感覚を使って楽しく課題を見つけるきっかけになると思いました。

今回ふだんクエストを通して「自分以外の誰かはどうしているんだろう」と想像することで、知らなかった世界を自分に引き寄せることができたように感じます。「知ること」「体験してみること」「想像すること」で無関心モンスターは撃退できると確信しました。

文責:川田 麻記

取材・文: SCP塾TEAM
Reporting and Statement: scpteam

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