みんスポ・ソーシャルドリンクスVol.6–つながるパラリンピック
- 共同執筆
- ココカラー編集部
ゲストスピーカーによる「おもしろそう」な実践事例をヒントに、ゆるく飲みながら、みんなのスポーツ(みんスポ)を広げるためのアイデアを語りあう「みんスポ・ソーシャルドリンクス」。第6回目は「つながるパラリンピック」をテーマに、NPO法人D-SHiPS32
代表の上原大祐さんと、東日本大震災の復興事業に関わり、現在は企業でオリンピック・パラリンピック推進に取り組む山本啓一朗さんをゲストに迎えて開催されました。
<挑戦しつづけることで、つながりを広げていく>
「アイススレッジホッケー」というスポーツをご存知でしょうか。下肢に障がいを持つ選手がプレイできるアイスホッケーとして開発されたこのスポーツは、スレッジと呼ばれる専用のソリに乗り、両手にスティックを持って競技する、「氷上の格闘技」と呼ばれる激しいスポーツです。2010年バンクーバー・パラリンピックにおいて、日本チームは銀メダルの快挙を果たしました。上原大祐さんは、その立役者の一人です。
生まれつき「二分脊椎」という病気により下半身障がいを持っている上原さん。好奇心旺盛で天真爛漫な性格から車椅子を何度も壊すほどアクティブな日常を送っていましたが、そんな姿を目にしたとある車椅子販売会社の社長に「アイススレッジホッケー」を勧められたことが、上原さんの競技人生の始まりとなりました。
「障がいがあることで諦めない」という精神から、明るく子育てに励んできた母の姿、そして、仲間との出会い。世界の強豪選手との戦いの中で、選手としての腕を磨く上原さんは、カナダへの遠征試合参加中、子どもたちがアイススレッジホッケーを楽しむ姿を目の当たりにし、衝撃を受けます。そして「子どもたちがスポーツを楽しめる環境を日本にもつくりたい」とアメリカに留学。帰国後、障がいがある子どもたちも当たり前のようにスポーツや課外活動を楽しめる環境をつくるべく、企業や福祉施設などにも働きかけ、2014年特定非営利活動法人ディーシップスミニ(D-SHiPS32)を設立し「夢が、いちばんのエネルギー。」をキャッチコピーに、誰もが当たり前のことを当たり前にできる社会をつくろうと奮闘しています。
日本社会にはパラリンピック選手の活躍を阻む要因や苦労がまだまだあると、上原さんは語ります。その一つは、ドーピング抜き打ち検査への対応です。早急に対応できなければ選手権の剥奪の可能性もある厳しいコンディションは、普段は会社に勤務しながらスポーツに励んでいる選手にとって過酷な要求と言えますし、24時間居場所登録が求められるためプライバシーがありません。また、スポーツの振興にあたる競技団体などとの関係性において、選手が弱い立場におかれることも少なくないとのこと。
しかし、厳しい状況の中から、希望の芽を見出すこともできると上原さんは考えています。例えば、パラリンピックに使われる道具。競技人口が少ないことから国産品がなく海外からの輸入品に頼らざるを得ないアイススレッジホッケーの道具を、日本の町工場とコラボしてつくることができれば、産業の活性化や、アスリートのセカンドキャリアにもつながる可能性があるでしょう。「アイデアがあれば、『無理』を『可能』にできる」。上原さんは、この他にも、長野県東御市の不耕作地の開墾や古民家再生活動を通じて、障がいの有無に関わらず誰もが楽しめる村づくりを進めようと「ユニバーサルビレッジ【きっかける103】(きっかける東御)」を展開するなど、スポーツに関することのみならず数多くのプロジェクトを通じて、多くの人たちに気づきと勇気を届け続けています。
<企業のノウハウの”新しい活かし方”を開拓したい>
続いてのゲストスピーカー山本啓一朗さんは、NEC(日本電気)の社員でありながら、復興庁(宮城県復興局)に2年間出向し、東日本大震の復興事業に深く携わってきたという異色のキャリアを持っています。そんな山本さんが現在取り組んでいるのが、東京2020プロジェクト。東京2020ゴールドパートナーとして、企業の立場から東京オリンピック・パラリンピックを盛り上げていく仕事です。
震災復興から、オリンピック・パラリンピックへ。一見つながりがなさそうに思えるこれら2つの現場には、実は、これからの社会のあり方を考えていく上で共通する大きなヒントがあると、山本さんは感じています。それは、大企業の持つ人材やノウハウを各現場に「結びつける」ということ。それにより、双方にこれまでなかった価値が発掘され、互いにとってのWin-Winのシナリオが描かれていくというのです。
東北被災地では、震災前から「地域産業の衰退」という大きな課題を抱えていました。地域にせっかく良いものがあっても、ブランディングや購買者開拓に結びつける人材やノウハウ・ネットワークの不足がネックとなっていたのです。被災自治体もまた、マンパワー不足という課題を抱えていました。地方(地域)の人材が、皆、都市部に集中していく。この「人材の偏在化」の問題は、大企業と地方の企業・組織の間にも、象徴的に現れている。だからこそ、地元経済の課題の深堀りと、その解決に向けた支援のマッチングができるはず。こうして、大企業等の持つ経営資源を地域課題と結びつける、地域復興マッチング「結の場」が誕生しました。
例えば、宮城県気仙沼市では、「サメの街気仙沼構想推進協議会」サポートプロジェクトが生まれ、被災地の企業と支援企業がつながることで「サメの街気仙沼」のブランド構築や商品・サービスの開発が進み「健康・アンチエイジング食材」としてのポジショニングの提案や、都内で複数店舗を展開しているダーツバーでの採用などが進んでいます。また、企業が社員を被災自治体に出向させ、復興を下支えする枠組みとなる「 Work for 東北」という復興庁事業も生まれました。
(結の場マルシェの様子)
企業の持つビジネスリテラシーや人材などを含めた資産を東北の復興現場に活かすことができたように、今度はパラリンピック競技やマイナースポーツの振興も活かしていけるはず。山本さんは、自分の暮らす地域で子どもたちを対象としたブラインドサッカーのイベントを開催することなどを通じて、そういった可能性を探っています。
<2020東京の使い方>
ゲストスピーチ後の対話セッションでは「地方出身者が東京という地域とつながるためには?」「障がいを持った人たちと関わるために、どのようにアプローチすればよいか?」など、会場から多くの問いかけがありました。「子どもやスポーツなど、人や地域とつながるきっかけはいくらでも見いだせる」「地元と東京を結びつけるという視点から、つながりをつくることもできる」「障がいがあるからできない、などと決めづけず、交わる視点を持つこと。例えば、車椅子は障がい者しか使っちゃいけないといった考えも思い込みかもしれないし、いろいろな見方・考え方を持つことが大切」。対話を通じて「固定概念を一旦手放して見ることから、埋もれた価値を発掘し、それまでになかったものを生み出せる」といった実感を、皆さん、感じていったようです。
最後に会場に集まった多様な方々のコメントを紹介します。
「盲導犬・介助犬・聴導犬の認知を高めたいと活動しています。ここで、いろいろな角度から活動する人と合うことを通じて、2020年にむけた活動の全体像が見えてくることをとても楽しく思っています」(日本補助犬協会朴さん) 「業務では技術者支援トレーニングプログラムを提供しています。ITスキルはどの産業でも活かせるし、在宅勤務も可能になる。いろいろな環境をつくっていくことで、ダイバーシティな社会に貢献できたらと思います」(シスコシステムズ・シスコネットワーキングアカデミー長部さん)
「ブラインドサッカーのゴールキーパーをやっています。障がい者と健常者が一緒にやっているスポーツはたくさんあるのに、実際にやっている人たちはまだまだ少ない。その環境つくっていけたらと思います」(INFINITY清都さん)「大学で障がい者スポーツを教えています。教育機関がどのように関わっていけるか、学生が学ぶ道筋を選べるのかを、いろいろな意見を参考に探って行きたいです」(立教大学助教安藤さん)
2020年、東京に関心が高まるタイミングに向けてどんな仕掛けをしていけるのか。このドリンクスから生まれるであろう新企画に、期待したいと思います。
みんスポ・ソーシャルドリンクスVOl.7は、8月5日の開催です。
参考
特定非営利活動法人ディーシップスミニ(D-SHiPS32)Facebook Page
ユニバーサルビレッジ【きっかける103】Facebook Page
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