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1

Aug.

2021

interview
8 Feb. 2021

地域に根差したビール造りをみんなで 京都「西陣麦酒」の取り組み

鈴木陽子
ストラテジスト/PRプランナー
鈴木陽子

2010年代半ばからの第三次ブームで、一躍人々の支持を集めるようになったクラフトビール。地域の特性を採り入れて作られることで、ビールの多様な個性を味わうことができる点を魅力の一つと捉えている方もいらっしゃることでしょう。

そんな多様性を内包した飲み物であるビールを、多様な仲間と一緒に醸造・販売しているブルワリーが京都にあります。その名も「西陣麦酒(にしじんばくしゅ)」。西陣織で有名な京都・西陣にあるその醸造所は、2014年に、自閉症の方と一緒にビールを作るプロジェクトとして立ち上がりました。

今では障がいのある方だけでなく、地域の方や大学などの色々な方たちと協働しながら「西陣麦酒」の事業を運営されている、特定非営利活動法人HEROES理事長の松尾浩久さんにお話をお伺いしました。

 

障がいのある方が地域の一員として担える仕事を作る

 

――「西陣麦酒」は当初、「西陣麦酒計画(Nishijin Ale Project)」という、自閉症の方と一緒にビールを醸造・販売するプロジェクトとして立ち上がったということですが、その立ち上げのきっかけを教えてください。

元々、私自身は障がい福祉の分野で、「地域で生きにくさを感じている方に対して何かできないか」ということを活動のテーマとして掲げ、障がいのある方の地域での生活支援をこの20年くらいおこなってきました。

その中で、家庭など生活の支援や介護、居場所づくりは、福祉事業が得意な部分ですが、働くことの支援はうまくできていませんでした。

障害者雇用という言葉を聞いたことのある方も多いかもしれませんが、2014年当時は、重度の障がいがある人たちが働ける場は多くありませんでした。「障がいのある方が自信をもって働き、地域の一員として担えることを創っていきたい」という思いが一つのきっかけとなって、プロジェクトがスタートしました。

 

――その中でも、自閉症の方が働く場所として「クラフトビールの醸造所」を着想した点がとてもイノベーティブですね。

ビールを選んだ理由は2つあります。1つは、「つながりを感じられるもの」を作りたいという思いです。

普段、電車やバスに乗っていたり、商業施設に行ったりした時に、障がいのある方を見かけたりすれ違ったりしても気づかないことがあるかもしれません。存在が当たり前で自然であるから意識しないということであればいいのですが、意識・認識の中にないために存在に気付かないというのは、とても悲しいことであると思います。

おしゃれで美味しく、日々消費されるものを作ることで、接点を持ち続けることができ、どこか頭の片隅に障がいのある方を感じ続けてもらえる。啓発的な意味でも、ダイバーシティを感じるという意味でも面白いと思っていたというのが、ビールを選んだ理由の1つです。


(特定非営利活動法人HEROES理事長の松尾浩久さん)

ビールを選んだもう1つの理由としては、「製品として認められるもの、自分が欲しいと思えるような品質のもの」を作らないといけないと思いました。

そう考えた時に、自閉症の方が苦手とすることではなく、得意とすることを生かしたい。自閉症の方の「ルールに厳格である」、「手を抜かない」などの特長は、製造業ではとても強みになります。それを生かした製品を作れば、認められる良いものを作れる自信がありました。

 

――そこからどうやってビール造りというアイデアにたどり着いたのですか?

僕たちがやりたいことと市場が求めているものを色々と考えました。やりたいこととしては、事業の目的は地域生活支援なので、障がいのある方が住まれている地域内で、地域性を大切にした製品や働き方にしたい。しかもおしゃれで、できれば福祉っぽくないものという点も踏まえられたらいいなと思いました。

あとは市場性を考えた時に、プロジェクトを立ち上げたメンバーがみんな、ビールが好きだったことが大きな要因だと思います(笑)。「無理だよ」という人が一人もおらず、「面白いしやろうよ」となったのが、プロジェクトが動き出した第一歩だったかと思います。

 

――現在、障がい者の方はどのような形でビール造りに携わっているのですか?

醸造に関する工程を一人でほとんどできるブルワーと呼べる方もいますし、衛生管理作業を得意としている方もいます。あとはボトリングや、瓶へのラベル貼り、出荷に向けた荷造りなど、おおよそ8割9割の工程を障がいのある方が担っている状況です。

自閉症の方が苦手とする接客については難しい部分もありますが、京都市内のお得意先への配達作業も障がい者の方が担ってくれています。納品先の店員さんが「頑張っているね」とお声をかけてくださったり、地域の方との良い関係が育ってきている感じがあります。

ちなみに、希望があれば東京などの他府県にも出荷していますが、主な出荷先は京都市内が中心です。地域でたくさん飲まれて愛されることで、障がいについての理解が広まり、住みやすい地域づくりにつながればいいなと思っています。


(ビール造りに携わる障がい者の皆さん)

 

地域の方の応援を糧にして事業を展開

 

一貫して福祉事業に携わり、商売をするということ自体が初めてだった松尾さん。実際に「西陣麦酒計画」を立ち上げてからは、資金についても場所についても試行錯誤が続いたといいます。そんな中、最終的には約1000人の方から賛同を得て寄付を頂き、場所についても地域の方の応援を得て、事業の立ち上げにたどり着くことができました。

 

――地域の方の応援があるのとないのとでは、事業の展開のしやすさは変わってきますよね。

全然違いましたね。福祉だけをやっていても、地域の方との関わりはそれほど多くありません。皆さんも気に掛けてくださっているのですが、障がいのある方にどう声をかけていいのかわかりにくいと思いますし、私たちも手伝ってほしいけれどあまり気楽にお願いもしづらく、思い返すと付かず離れずという関係であったと思います。

しかし、「クラフトビールを始めます」という張り紙をしていたところ、「お兄ちゃんビール始めるのか」と地域の方からお声がけをいただくことができ、ぐっと距離が縮まった気がしました。商品であるビール自体が多様性を許容していく、商品自体の魅力に助けられました。

 

――事業が軌道に乗った今でも、株式会社ではなく、NPOとして事業活動を続けられている理由などはありますか?

我々は、利益を出しつつ、社会を変えることを大きな目的としています。より多くの人の目でチェックし、協力をしてもらおうと考えた時に、市民活動としてのNPOが僕らにとっては一番しっくりくると思ったのが理由の一つです。

確かに株式会社の方が小回りは利きやすいですが、ダイバーシティとインクルーシブな地域生活支援という視点でいうと、NPOの方が価値を創出しやすいと考えています。


(地域の拠点である西陣織会館でのイベントに出店した時の様子)

 

違和感や偏見を呼び起こさない情報発信を

 

――「西陣麦酒」のウェブサイトを拝見すると、「自閉症の方と一緒につくるビール」という点を前面に出されている印象をあまり受けませんでした。情報発信の際に、「自閉症の方と一緒に」という点はどのように意識して見せ方を検討されているのでしょうか?

方針としては、2つの方向性を意識しています。自画自賛ですが、西陣麦酒のビールはおいしいと思っていますので(笑)、商品としての良さを純粋にお伝えする情報発信と、もう一つは、啓発的な情報発信をするものです。

地域社会は、性別、障がいの有無、世代、見た目、出身地などが異なる様々な人がいて、多様性があるのが本来は当たり前な状態だと思います。その当たり前であるはずのことを殊更発信する必要があるのか…。でも現状を考えると啓発もしたいし、正直、悩みます。

ただ、普段、障がいのある方にあまり関わりのない方たちがこのビールを手にした時に、「おいしいビールだなぁ。どこが作っているのかな。珍しいな、NPOかぁ。自閉症の人と作ってるんだ。そういえば最近、ダイバーシティとかよく聞くなぁ。こんなおいしいビールが作れるんだ。違う味も飲んでみたいな。」というように、自然に感じられるというのか、違和感なく理解していただきたいという思いはあります。「ビールを通してワイワイやっていて、気づいたら横に障がい者の人がいた」という風になるような広報をしたいですね。


(「西陣麦酒」のWebサイト)

また、事業の運営母体であるNPO法人HEROESや福祉事業所のことを知っていただいていて、応援してくださっている方向けには、出来るだけ多くの情報も発信したいと思っています。NPO法人のホームページは私の手作りなのですが、そちらには障がい者の方が作業している様子なども動画で紹介させていただいています。

ダイバーシティというと、色々な人が一緒に存在することになりますが、ただ単に色々な人が集まっただけであればトラブルも起こってしまいます。要はインクルージョンが必要で、違和感や偏見を持たれない形でインクルージョンができて初めてダイバーシティの意味があると思います。そのための情報発信が大切だと思っていますが、本当に悩みながら進めているところです。


(「NPO法人HEROES」のWebサイト)

 

商品への反響から、パートナーシップの拡大へ

 

――お客様や周りの方からの反響で、特に印象に残っているものはありますか?

月並みですが、美味しいとかおしゃれだねと言われるのはすごく嬉しいです。一番の反響は、作業に従事してくれている自閉症の方が、喜ばれている様子です。「自分たちが作った商品が百貨店で売られている」と目を輝かせながら売り場の様子を報告してくれるなど、その方の人生にとってプラスの出来事はとても印象に残ります。

また、事業開始から4年目になり、一緒に商品開発をしようとか、一緒にイベントをしようとか、宇宙でビールを作るプロジェクトに協力して欲しいなど、色々な業種の方からお声をかけて頂けるようになり、接点がどんどん広がっています。

 

――今後はどんなことにチャレンジしていきたいですか。

雇用の創出につなげるためにも、情報が伝わる範囲を限定しないためにも、事業を広げていきたいという思いはあります。

例えば、「農福連携」にも積極的にチャレンジしたいです。「農福連携」というのは、「農業と福祉の連携」を意味する言葉で、障がい者の方などが農業で働くことを通して、農業と福祉の双方が抱える課題を解決し、地域共生社会を目指そうとする取り組みです。農林水産省と厚生労働省が連携して推進しようとしているのですが、これを我々も進めていきたいと思っています。

具体的には2つありまして、1つは、現在も限定的に取り組んでいる、国産原料100%で、生産・製造に障がい者が100%関わる「ノウフク100%クラフトビール」の定番化です。もう1つは、原材料である麦の栽培と、麦を麦芽にする「製麦」という作業にも障がい者の方とチャレンジしたいです。「製麦」に関しては、前例も少なく課題も多いですが、何とか実現していきたいと思っています。

 

インタビューの全体を通して、「西陣麦酒」のビールが徐々にファンを増やし、多くの方によってフラットに楽しまれているのは、事業の目的である「障がいのある方の地域生活支援」から軸をぶらさずに、地域に根差して地元の方の賛同や協力を得た上で、丁寧に事業を広げていった結果なのだと強く感じました。

今後も、様々なパートナーシップを通して、多様な個性を持つビールが開発されていくことを楽しみにしています!

松尾 浩久 氏
特定非営利活動法人HEROES 理事長
2001年社会福祉法人西陣会に入職し、障害者自立支援法に基づく多機能型事業所(生活介護事業及び就労継続支援B型)のサービス管理責任者、自閉症支援担当主任などを歴任。在職中に米国ノースカロライナ大学TEACCH部でアセスメントのトレーニングを受ける。株式会社Straightを経て、2013年特定非営利活動法人HEROESを設立。2017年に「西陣麦酒醸造所」の事業を開始。

「西陣麦酒」
https://nishijin-beer.com/
※京都市内の飲食店・小売店の他、オンラインストアでもご購入いただけます。

特定非営利活動法人HEROES(「西陣麦酒」運営母体)
https://www.762npo.jp/

取材・文: 鈴木陽子
Reporting and Statement: yokosuzuki

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