オイシイQUEST #1 フードピクト導入率80%の成田空港で、”みんなでオイシイ”が見つかる。
- cococolor編集員 / ライター
- 伊藤亜実
食のダイバーシティに関する活動や、積極的に取り組むスポットを紹介する連載「オイシイQUEST!」
第1回目の今回は、日本の玄関である国際空港の取り組みをご紹介します。
今回訪れたのは、成田国際空港。
毎日、約450本の国際便が発着し、約8万5,000人が利用する、日本を代表する国際空港です。
(写真)毎日世界中の飛行機が発着する成田国際空港は、人種の坩堝となっている
先日の大型連休でも、成田空港を利用されたという方が多いのではないでしょうか。
様々なインクルーシブアクションに取り組む成田空港ですが、近年では、食事のダイバーシティへも、積極的に対応しています。その一つが、今回ご紹介する「フードピクト」です。
【フードピクトって?】
「ハラル」、「ベジタリアン」などといった言葉は聞かれたことがあるでしょうか。
文化や信仰、ライフスタイルなど、あらゆる価値観を背景に、食べられない食材があったり、特別な過程を経た食材でないと口にできなかったり、といった、食事に関する価値観の多様性が、近年注目されています。
お子さんをお持ちの方であれば、「アレルギー」も、気になるトピックかもしれません。
他にもビジネスマンであれば、海外から来られたムスリムのお客さんをおもてなししようにも、どのレストランに連れて行けば良いかわからない・・・というような経験をされている方は多いかもしれません。
実は身近に存在する、食のダイバーシティ。
自分自身には、食べられない食材がない人でも、知っておけば、いろいろな人と一緒に食事をするときに、心配が要らなくなります。
今や、食事の材料に何が使われているのか、ということが多くの人にとっての大事な関心事となったのです。
食べられる食材に制限がある人にとって、いちばん大変なのは、旅行先での食事の場面です。
本当はいろいろな食べものを試してみたいのに、何が入っているかわからないと、すべての食事に疑心暗鬼になって、何も食べられなくなってしまいます。
そこで、開発されたのが、食事に含まれている食材を可視化するマーク、「フードピクト」です。
あらゆる人が、心配なく食事をできる環境を整えるため、NPO法人インターナショクナル代表、菊池信孝さんが学生時代の2006年から活動を始めました。
フードピクトには、宗教やアレルギーなどの食の多様性に対応する、全14種類のピクトグラムが用意されています。メニューに含まれる該当食材のピクトをメニュー等に表記することで、来店者が食べられない食材を意図せず口にしてしまうことを、回避することができます。
日常的にダイバーシティに触れることの多い欧米諸国では、ハラルやベジタリアンの概念も浸透しており、対応メニューが用意されていることも多いですが、日本の飲食店では、まだまだ一般化していません。
インターナショクナルでは、フードピクト導入指導や、ワークショップ開催など、様々な取り組みを通して、食のダイバーシティを普及啓発しています.
【成田空港での取り組み】
フードピクトが国際空港へ次々に導入されるようになり、このピクトの存在が多くの方の目に触れやすくなりました。
国際空港は、訪日外国人をはじめとした、多様な文化を持つ人が数時間を過ごす場所ですので、食事のダイバーシティへの対応は必至です。店舗毎ではなく、空港全体での表記を統一する必要性から、成田空港では、2014年から、フードピクトを導入しています。
(写真)N’s Courtには、連日様々な食文化を持ったお客様が訪れる
成田空港第2ターミナル最大級の広さで、200 席以上の客席を持つ開放的なカフェテリア、「N’s Court(エヌズコート)」。導入初年から、フードピクトを積極的に取り入れています。
店頭でのオペレーションで試行錯誤を繰り返し、現在では、店頭のショーウィンドウとメニューに掲出しています。
「当店の利用者の約半数が、外国人のお客様です。日々、いろいろな国籍や文化に精一杯対応していますが、外国語が堪能なスタッフばかりではないので、食材の名前を言葉で伝えるのは、とても時間がかかっていました。」
そう語るのは、森本大伸店長。
フードピクトを導入したことで、指差しでのコミュニケーションができるようになり、接客が非常にスムーズになり、より積極的に活用するようになったといいます。
(写真)フードピクトを記載しているメニュー
フードピクトの導入も3年目を迎え、成田空港では、テナント飲食店の約8割で採用されています。
採用店舗に対しては、食のダイバーシティについて知り、フードピクトを効果的に運用していくための研修を毎年提供。加えて、店舗での運用状況を確認し、フィードバックすることで、フードピクトのさらなる改善に役立てています。
(写真)フードピクトが記載されているN’sCOURTのショーウィンドウ
【食のダイバーシティについて、関心を持つきっかけに。】
成田国際空港株式会社 営業部門リテール営業部 企画グループマネージャー 田中大補さんは、かつて障害児クラスのある小学校に通っていて、そのクラスの生徒たちと学校行事を一緒に楽しんだりと、幼少からダイバーシティに自然に触れる環境があったそうです。
「一緒に生活していれば、その状態がごく当たり前になってきます。自分自身と障害者との、違う部分や違わない部分を自然に意識することができる。そうすると、助けを必要としているときには、自然と手を差し出すことができるようになります。障害者や多文化など、いろいろなダイバーシティがありますが、日常的に触れ合う機会を増やし、自然と理解が醸成されていくような、きっかけの提供が必要だと思っています。」
(写真) 左からNPO法人インターナショクナル菊池氏、押谷氏、成田国際空港株式会社 営業部門リテール営業部 田中氏、井ノ口氏、小林氏
本取材では、成田国際空港の皆さん、インターナショクナルのお二人それぞれから、ダイバーシティに対する使命感に溢れたお言葉を、伺うことができました。
成田空港では以前から、急激に増加するインバウンドへの対応が求められていました。しかし、誰しもが日々接する「食」というテーマにおいて、代表的な国際空港である成田空港が積極的に取り組むことは、単なる対応の域を超え、人々の日常の中にダイバーシティを溶け込ませ、理解するための「きっかけ」づくりになっているのではないでしょうか。
みなさんも、成田空港にお越しの際には、ぜひ、フードピクトを見つけてみてください。身近なあの人や、今度あの国から来るあの人と一緒に食事をするなら、どのメニューが良いだろう、と、想像してみてはいかがでしょうか。
関連サイト:
注目のキーワード
関連ワード
-
ユニバーサルツーリズムUT
すべての人が楽しめるよう創られた旅行であり、高齢や障がい等の有無にかかわらず、誰もが気兼ねなく参加できる旅行を目指しているもの(観光庁HPより)。http://www.mlit.go.jp/kankocho/shisak […]詳しく知る
-
ハラルフードHalal Food
イスラム教の信者であるムスリムが食べることの許されている食事・食べ物のこと。基本的には、豚・犬等の動物、また、それ以外の動物の肉であっても正式な手順で屠畜されたものでなければハラーム(禁止されているもの…詳しく知る
-
ソーシャルデザインSocial Design
自分の「気づき」や「疑問」を「社会をよくすること」に結びつけ、そのためのアイデアや仕組みをデザインすること。詳しく知る