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27 Mar. 2020

『パラサイト』と考える多様性と共生

大塚深冬
プランナー
大塚深冬

映画『パラサイト 半地下の家族』の魅力と衝撃が話題になっています。

『パラサイト 半地下の家族』(以下:パラサイト)は、予測できないストーリー展開や様々なジャンルが融合した強烈な作品性が人々を惹きつけ、世界中の映画祭で輝かしい功績を収めています。

日本国内でも、昨年末の先行上映時から若年層を中心に話題となり、公開約2ヶ月で動員320万人、興行収入44億円を突破するなど、日本における韓国映画歴代1位の記録を塗り替えました。そしてなにより、今年2月に行われたアメリカのアカデミー賞で外国語映画として初めて作品賞の栄冠を手にしたことは日本でも大きく報道されました。

『パラサイト』と多様性課題

cococolorは映画メディアではありませんので、この記事では多様性課題という視点から『パラサイト』について考えてみます。また、本稿の執筆にあたり『パラサイト』国内の配給会社ビターズ・エンド 星さん(宣伝プロデューサー)にインタビューのご協力を頂きました。

物語の核心には触れませんので、まだ観られてない方はネタバレの心配なくお読みください。

 

どんな映画?なぜヒット?

『パラサイト』 は、 “半地下”に暮らす貧しい家族と、丘の上に立つ豪邸に暮らす裕福な一家という、対照的な2つの家族を中心に展開される映画です。星さんの言葉を借りるなら「見終わった後、作品や自分たちの生きる社会について語りたくなる映画」でありつつ、後半の予測不能な展開を言ってはいけない“ネタバレ厳禁”として拡散されていきました。「社会的なメッセージをエンターテインメントに昇華させた」という作品自体の持つ強い力こそが、世界中で賞賛されている理由でしょう。

 

格差社会という共通課題

舞台となる半地下とは、部屋の半分が地下に埋まっている住居のことです。韓国社会では貧しさを象徴するような居住空間であり、丘の上に立つ豪邸と対比されて描かれることで、貧富の差は際立ちます。

「韓国や日本に限らず世界のほとんどの国は今、資本主義という一つの時代を生きています」とポン・ジュノ監督自身が話すように、この映画では今私たちが生きる資本主義社会と、そこにうまれる二極化や貧富という格差問題が扱われています。

韓国社会が抱える問題を映したこの作品が、結果的に世界各国で賞賛されたことを受けて、この映画には普遍性があるとも監督は話しています。言い換えれば、この映画に描かれる格差とは、半地下という居住空間が存在するしないにかかわらず、日本を含む世界の様々な社会に共通する課題といえるのです。

格差をテーマにした映画自体が珍しいわけではありません。『パラサイト』が浮き彫りにしたもう一つの多様性課題として、この記事ではアカデミー賞に注目します。

 

アカデミー賞での快挙

『パラサイト』は第92回アカデミー賞で6部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の4つの栄冠を韓国に持ち帰りました。作品賞とは、その年のアメリカで上映された最も優れた作品という名誉です。アメリカが製作に入っていないアジア映画が作品賞にノミネートされること自体が初めてであり、”アメリカにとっての外国語”映画が受賞したことが初めてでした。「これまでのアカデミー賞の歴史を覆すようなこと」という星さんの言葉は、決して大げさな例えではないといえます。

ちなみに、『パラサイト』はカンヌ国際映画祭でも最高賞のパルム・ドールを韓国映画として初めて受賞するのなど、世界中で160を超える賞を受賞しています。

そして、『パラサイト』のアカデミー賞での快挙を語る上で忘れてはいけないのは、アカデミー賞における多様性の問題です。特に、白人偏重が問題視されてきた点です。

外国語”映画が変えた歴史

アカデミー賞では、2016年に演技部門にノミネートされた20人が2年連続全員白人だったことが大きな物議を醸しました。2018年には、主演女優賞に手にしたフランシス・マクドーマンドさんが受賞演説で、「映画に登場する人物のなかに、女性、少数民族、LGBTQコミュニティの人々、障害をもつ人々がある程度の割合で入っていること」を条件とした要項(=インクルージョン・ライダー)に言及したことが話題になり、cococolorでもこの記事で取りあげました。

そして今回、多様性の欠落が指摘され続けるアカデミー賞は、その長い歴史に『パラサイト』の名を刻みました。

アメリカでは、3館から始まった上映が話題を呼び、アカデミー受賞前までに1,000館にまで拡大。『アベンジャーズ』や『スター・ウォーズ』などのハリウッド大作を超えて昨年の年間最大のオープニング週末興行成績を記録、さらに同年の外国映画興収第1位になるなど、爆発的ヒットを遂げました。

世界中での圧倒的な支持を受けてのオスカー獲得である一方で、アカデミー賞は自らの多様性課題を解決するために作品賞に外国語映画に選んだという見解もでるかもしれません。それが良い悪いと様々な意見があると思われますが、受賞の妥当性を議論することはここではいたしません。

ここで注目したいことは、一本の韓国映画がアメリカの映画産業に投じた石の持つ意味とその大きさです。多様性という視点からアカデミー賞が見直される機会に収まらず、アメリカ産業における外国語コンテンツについての議論もうまれるでしょう。更に、自国と外国や我が家とお隣、自分と相手とを隔てる線や壁について考えるキッカケにもなりえるはずです。

(C)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

 

映画から見える社会

映画を通して社会が見えてくることは多くあります。それは作品の内容だけに限りません。例えば、『パラサイト』は、標準労働契約を順守して製作されたことも大きな注目を集めました。標準労働契約書とは、映画製作スタッフの低賃金や長時間労働が問題となる韓国で、保険への加入や超過勤務手当支給、契約期間の明示などが盛り込まれた労働契約書のことを指します。この作品の成功によって、韓国映画界に標準労働契約の拡大が期待されるなど、映画によって社会が見え、社会に変化が生まれることもあるのです。

 

「寄生」から「共生」へ

この映画の原題『기생충』は「寄生虫」という漢字を韓国語表記にしたものです。その名の通り、貧しい家族が裕福な家庭に”寄生”する様子が描かれるのですが、それは同時に、裕福な家庭も貧しい家族に寄生しているということも描いています。

「寄生」は、たった一文字変えるだけで「共生」になります。監督が明かした「どのようにすれば寄生ではなく共生することができるのだろうか、どうしたら美しく共に生きることができるのだろうか、分断され分離することなく共に生きていけるのかという問いを投げかけようとした」という言葉は、多種多様な人と社会の課題解決が求められる現代社会において、重々しく響くメッセージである思います。

 

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参照リンク:

-映画公式サイト:『パラサイト 半地下の家族

-配給・宣伝会社公式サイト:Bitters End

-cococolor:「今、ハリウッドで話題の「インクルージョン・ライダー」ってなに?

取材・文: 大塚深冬
Reporting and Statement: mifuyu

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