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10 Sep. 2019

アウトサイダーアートを纏う~PR-y発、アートを昇華させたファッション

増山晶
副編集長 / クリエーティブディレクター/DENTSU TOPPA!代表
増山晶

■アウトサイダーアートをファッションブランドに。

ドキュメンタリー映画「地蔵とリビドー」や写真集で、アウトサイダーアートを展開するプロジェクト、PR-y(プライ)。cococolor取材の第1弾「その眼差しに『ゆがみ』はないか。PR-y笠谷氏が、世に問い続けること。」では、主宰の笠谷圭見氏にその思いをじっくり聞き、これまでの多岐にわたる活動を振り返ってもらった。

筆者は以前、笠谷氏からPR-yの写真集やアートコレクションをもとに、アートにおけるリビドーの大切さを説かれ、感じ入った。特に、アートを書籍や美術館に綴じこめて終わらせず、大胆にテキスタイルに展開した作品に魅了されたのだが、このたび、実際のアイテムを手にする機会を得た。cococolor連続取材・第2弾は京都にて。通り雨の後もまだ暑さの残る中、PR-yのファッションブランドDISTORTION3の2020年春夏コレクション展へ、創業400年の登録文化財・烏丸御池のしまだいギャラリーを訪ねた。

 

東京での「地蔵とリビドー」展は、障害者施設・やまなみ工房のアート作品展示と映画上映だった。京都では映画上映のほか、そのアートをテキスタイルデザイン展開した現代的なファッションにじかに触れることができる展示受注会を開催。DISTORTIONシリーズの写真集・書籍・DVDの展示販売も同時展開された。

■「ただ、カッコいい」ファッションの持つ、圧倒的なパワーの源泉。

市街地のにぎわいから一歩ギャラリーに入ると、静謐な空間に浮かび上がる鮮やかな色彩や力強いデザインが目に飛び込んでくる。これが、ヨーロッパ、アジア、アメリカのセレクトショップでも販売中の人気ファッションブランド、DISTORTION3だ。


 
「福祉に関心がない人を狙いたかったんです。」
入り口を福祉でなくファッションにすることで、本来の魅力をフィルター=DISTORTION(ゆがみ)なく見てもらう機会を作りたかったと、笠谷氏は言う。

先入観を持たずに見て、ただ、カッコいい。そして、その背景にあるアーティストのストーリーを知ると、さらにそのカッコよさの「芯」を感じる。まずは蔵の中で、印象的に展示されたやまなみ工房のアート作品を見る。数字のハンコを独特のリズムで連ねた中川ももこさんの作品の前には、実物のハンコの展示も。

中川ももこさんの作品


 蔵の中では映画「地蔵とリビドー」の予告編のVTRもループ上映されており、訪れた人はここでPR-y誕生の経緯や作品の源泉を知る。まさに、リビドーに突き動かされて生まれる必然を知ることで、私は作品の持つエネルギーを再認識した。

「障害を持っている『から』すごいのではないんです。むしろそのことは知らなくてもいい。ただ純粋にかっこいいものをかっこいいと思ってほしくて。」

ファッション展示フロアへ移ると、先ほど展示されていたアート作品がテキスタイル加工され、先端ファッションとして陳列されている様が壮観だ。DISTORTION3の2020年春夏物新作コレクション。今回の展示会アイコンでもある人気のピンクジャケットも、カジュアルなTシャツも、先ほどの絵画たちが新しい作品として生まれ変わったものだ。

勝間陽介さんの作品

 

 

城谷明子さんの作品

 

2日間の会期中、240名が来場したという。ひっきりなしに訪れる人々は、試着をしながら笠谷氏ややまなみ工房の山下施設長と歓談している。アートとファッションの持つエネルギーに感化されるからか、ふるまわれるウェルカムシャンパンのためか、誰もが陽気で楽しそうだ。


 

「やまなみ工房を知っている固定ファンだけでなく、ファンの人から紹介されたファッション好きな人もたくさん来てくださいます。京都は通りすがりの方も多くて、なんだかかっこいいブランドだなと、ふらりと立ち寄るおしゃれな外国人も。」

「海外では感度の高い人がかっこいいからとコレクターになり、マーケットができる。日本はよりアーティストのプロフィールにまで心を寄せるが、それでは時に、がんばったね、という福祉の視点に回収されてしまう違和感もあるんです。」

毎年、パリから始まり、東京、関西の順でコレクションが発表される。海外からの逆輸入というタグ付により、日本でもシンプルにかっこよさから入ってもらいやすくなったと言う。

■纏うことで、自分自身もアートの一部になる。

筆者もこの希少な機会に、プライベートシャツを注文した。スタッフの方々と語らいながら、お気に入りの小川翔陽さんの家の絵をモチーフにした刺繍シャツを試着、購入。街のセレクトショップと相違ない、リーズナブルな価格設定。受注生産のため、到着は2020年2月のお楽しみだ。

 

気に入ったアートとの出会いから、ひとりひとりのために形作られる洋服たち。そのデザインのストーリーを知ることで、纏うだけでパワーをもらえるような気がした。

■「平等」でなく、「対等」視点で。アウトサイダーアートのある日常を創り出す、PR-yのインクルーシブな挑戦。

カッコいいファッションブランドがあった。そのアーティストにたまたま障害という個性があった。だからこそ力強く、リビドーを発するカッコいいアートが生まれたのかも知れない。描く人。発見する人。纏う人。それぞれが役割を持ち、対等に関わる。それぞれの想いが共鳴するインクルーシブなブランドに、ワクワクする楽しさを感じた。

そもそも、ともすれば埋もれがちで、世に出るときは福祉やバザー的にカテゴライズされがちな障害者アートを、ファッションブランドとして大々的に展開するきっかけとはなんだったのか、そしてこれからのPR-yはどこへ向かうのか、主宰の笠谷氏に尋ねた。

「僕は自分が感動したことを人に伝えたい。支援する側、される側に分けるような決めつけをなくしたいんです。障害者である当事者は、変わる必要はない。彼らを見る、一般の人たちの意識、まなざしを変えたい。彼らの中には社会と対等に勝負できるすごい才能があり、たまたまデザインスキルをもった僕が接点を見つけ、彼らが純粋に評価される仕組みをデザインしたのがこのプロジェクト。」

「PR-yについては、スタート時から継続が大事だと考えてきました。映画やファッションという入口に留まらず、興味がない人を振り向かせるために、さらに次の入口を探し続け、デザインし続けたいと思います。」

今後も、やまなみ工房で日々生まれる作品をもとに、ファッションだけでなく、映画、写真集、書籍、DVD、さらに次のアートの入り口が続々と展開されるPR-yの活動。

PR-yのインクルーシブな世界に触れるさまざまな機会を自分のものとし、ぜひみなさんも、自身が持っているかも知れない無意識のゆがみを取り払うための気づきを得てほしい。

 

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〈笠谷 圭見(かさたに よしあき)氏プロフィール〉
RISSI INC. クリエイティブディレクター
障害者施設で生み出される創作物の魅力を社会に発信するプロジェクト「PR-y」を主宰し、国内外のギャラリーや研究機関・教育機関などとの橋渡しを手がける。
2013年より「DISTORTION」というコンセプトワードを掲げ、写真・映像・ファッション・インスタレーションなど、様々な領域で障害者とのコラボレーションによる表現活動を行っている。

<PR-yウェブサイト>
https://pr-y.org/

<DISTORTION3>
https://www.instagram.com/distortion3_archives/

<やまなみ工房ウェブサイト>
http://a-yamanami.jp/

取材・文: 増山晶
Reporting and Statement: akimasuyama

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