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11 Sep. 2019

企業のなかの哲学対話部 ~小国士朗さんをゲストに迎えて~

半澤絵里奈
編集長 / プロデューサー
半澤絵里奈

電通デジタルでは、2018年8月に社の公式サークル活動として哲学対話部を発足。こども哲学・おとな哲学アーダコーダの協力を得て活動を実施している。部長の吉田圭さんによるとこの活動は、同じ会社にいてもこれまで接点がなかった者同士が話してみたり、業務以外の人間関係を築く以外にも、社内外の多様な人を混ぜて答えのない問いをしてみよう、という目的で開始。1年が経過した今も新入社員を含めた多くのメンバーが集うサークルとなっているそうだ。

働き方改革やキャリアの多様化によって、働くことやその環境の在り方に多くの関心が寄せられる時代。企業のなかでの「対話」に着目し、サークルという形で活動を続ける試みに魅力を感じたcococolor編集部は、7月に行われた6回目の哲学対話部に参加し、その様子を取材した。


「謎解き」から始まる、小国さんを考える時間

7月のゲストとして登場したのは、小国士朗(おぐに・しろう)さん(以下、小国さん)。そして、ファシリテーターを務めたのは、以前cococolorでもご紹介した川辺洋平さん(以下、川辺さん)。

長年勤めた放送局を離れ、キャリアの変化を迎えて間もない小国さん、実は7月に『不惑』と言われる40歳になった。あえて名刺に肩書きは記載せず、“認知症”、“がん”、“ラグビーワールドカップ”など幅広いジャンルに渡って、いろいろな立場で関わることが小国さんの仕事の特徴のひとつでもある。そこで、彼のプロジェクトやキャリアの話が始まる前に、小国さんにはわからないように参加者に対して一つの謎解きが提示された。

それは、「小国さんの紹介する仕事にはある『共通点』があります。それはなんでしょう。一言でおこたえください」というもの。

急な謎解きの出題に一気に集中力が高まる


チームの誰の意見も漏らすことなく、解を組み立てる

小国さんがこれまで携わってこられた「プロフェッショナル私の流儀(スマホアプリ)」、「NHK1.5チャンネル」「注文をまちがえる料理店」「deleteC(がんを治せる病気にすることをあきらめないプロジェクト)」等の事例を通じて、プロジェクト立上げのときのきっかけやエピソード、小国さんのなかにどんどん築かれていく価値観について参加者は耳を傾けた。

小国さんの活動の共通点を探して真剣に耳を傾ける会場いっぱいの参加者


盛りだくさんの情報と刺激的なキーワードのインプットを得た参加者は、まず、個人ワークとして小国さんの仕事についての共通点を紙に書きだし、その内容について、同じテーブルの人たちと共有。続けて、「チームの誰の意見も漏らすことなく小国さんの肩書を10分で考える」というお題が先の謎解きに重ねて発表され、対話のワークを開始した。

放送局にいたころは「番組をつくらないディレクター」として活躍した小国さん。肩書を持たずに動き回る姿に参加者たちからはさまざまな言葉が飛び交う。

小国さんを紐解いていくために並んでいくキーワードの数々……


個人ワークのときに飛び出した十人十色のキーワードを各チームひとつの肩書に込めて発表。4つのチームから出された小国さんの肩書は、「ヒューマン・アンプ」「デアイナー」「あったかコミュニケーションデザイナー小国士朗さん」「オグニック目線デザイナー」というもの。多くの参加者が、公私を通じて出会った人々を巻き込み、ソーシャルアクションをデザインしている姿や新しい視点でプロジェクト開発を進めていく姿に強い印象をもったということがうかがえた。各チームからの発表の際は、小国さんも身を乗り出して聞き、発表者と小国さんの間にさらなる問いが重ねられていくなど、会場は大いに盛り上がりを見せた。

全ての発表が終わり、川辺さんから「ところで、小国さんにとって肩書って必要ですか?」と聞かれ、小国さんは「要らないかな」と答えた。この答えに会場には大きな笑い声と拍手が響いた。肩書があれば、自分が何者なのか明確になり、相手を安心させる一方で、小国さんは肩書に規定されないおもしろさや不安定さを大切にしているのかもしれない。

 

「深く考えることは楽しい!」「業務以外のつながり」という声

実施後、参加者数名に話を聞いたところ、参加の目的や感想は大きく2種類あり、「深く考えることや普段疑問を持ってこなかったことに目を向けることが楽しい」というものと、「普段関わりのない社内の人と話してみるのが楽しい」という声が挙がった。中には大学時代に東洋哲学を専攻し、この機会に企業内での哲学対話がどういうものか知りたくて訪れた社員や、所属する部署以外の人と交流することを主たる目的にする人も参加していた。

対話のプロフェッショナルを外部から迎え、組織内での対話を複線的にデザインする意味を改めて考えさせられた。長期的な視点においては、働く環境の豊かさや職場の人間関係の多様性を育むことが出来ると感じ、短期的には大人になって改めて「対話」を体得することが円滑なコミュニケーション形成に有効だと実感した。

業務の都合によりサークルのスタート時間に間に合わなかった社員が、途中から息を切らして訪れる姿も非常に印象深かった。それほど、電通デジタルの「哲学対話部」は参加者にとって必要とされる空間になっていた。

小国さん、川辺さん、哲学対話部のみなさん、ありがとうございました。

 


特定非営利活動法人 こども哲学・おとな哲学 アーダコーダ
http://ardacoda.com/
正解のない問いについてグループで考える哲学対話を社会の中で実践的に活用するためのスキルやプログラムを提供するNPO法人。幼稚園に通うこどもたちから年配の方まで対象年齢を問わず、毎日のくらしの中にある正解のない疑問や不思議のタネについて、あーだこーだと考えを交換し、お互いが時間をかけて考えを深めることができる時間を提供している。

小国士朗氏
株式会社小国士朗事務所 代表取締役/プロデューサー
2003年、NHK(日本放送協会)に入局。ディレクターとして『クローズアップ現代』や『プロフェッショナル 仕事の流儀』などのドキュメンタリー番組を制作。2013年には社外研修制度を利用して、電通PR局で勤務。その後はNHKで開発推進ディレクターを務めたほか、個人プロジェクトとして「注文をまちがえる料理店」を企画。2018年6月に退局し、株式会社小国士朗事務所を設立。個人でプロデューサーとして活動。


川辺洋平氏
株式会社アール 代表取締役
広告会社、出版社を経て2014年から現職。NPO法人 こども哲学・おとな哲学アーダコーダ創設者。子育て、学習などの教育分野における、対話やファシリテーションでの課題解決が専門。実績に「はじめてばこ」「正装白T」など社会課題をテーマにした商品・サービス開発等。主著に『自信をもてる子が育つ こども哲学 – “考える力”を自然に引き出す -』(ワニブックス)。東京インタラクティブ・アド・アワード、Yahoo! JAPAN インターネット クリエイティブアワードなど受賞多数。

取材・文: 半澤絵里奈
Reporting and Statement: elinahanzawa

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