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10 Oct. 2019

日本初!センサリールーム導入とこれからの街づくり

岸本かほり
副編集長 / ストラテジックプランナー
岸本かほり

7/27に日本初の試みとして、川崎市等々力陸上競技場にセンサリールームが特設され、川崎市と大分県の感覚過敏の特徴がある子どもとその家族20組53名が、川崎フロンターレと大分トリニータのサッカーの試合を観戦した。

今回は、プロジェクトの立役者のひとりである川崎市役所の成沢さんにお話を伺った。

 

センサリールームってなに?

センサリールームとは、感覚過敏の特徴がある子どもたちとその家族が安心して過ごすことができる部屋。川崎市等々力陸上競技場のメインスタンドの一室をセンサリールームとして活用した。

大きな音や眩しい光、人混みなどが苦手な人でも、ここでは落ち着いた環境で、サッカー観戦を楽しむことができる。

落ち着いた空間でサッカー観戦

落ち着いた空間でサッカー観戦

 

プロジェクト発足の経緯

プロジェクトは大分県と川崎市のご家族を募集する形のユニバーサルツーリズムとして、川崎市が主催、共催に川崎市自閉症協会、企画・運営には富士通、ANA、JTB、そして川崎フロンターレや日本プロサッカーリーグが関わっている。

始まりは川崎市のプロジェクトとしてではなく、シンポジウムの登壇者として出会った各企業のメンバーの中で生まれたアイデアが発端だったというのが面白い。

飛行機やバスでの移動、センサリールームの設置、スタッフの研修、しおりの作成、選手の協力など、それぞれの団体に役割があり、どのパーツが欠けても成り立たないプロジェクトであった。

来てくれた皆さんを歓迎するトリニータサポーター

来てくれた皆さんを歓迎するトリニータサポーター

子どもたちのために作られた旅のしおり。不安になることがないよう見通しを立てる内容

子どもたちのために作られた旅のしおり。不安になることがないよう見通しを立てる内容

 

ユニバーサルツーリズム2日間のスケジュール

1日目は、サッカーの試合観戦。

音が大丈夫な子どもはセンサリールームから出て応援していたり、落ち着かなくなったらスヌーズレン(カームダウンスペース)でゆっくりとしたり、思い思いに観戦を楽しむことができた。

応援に熱が入る

応援に熱が入る

時にはスヌーズレン(カームダウンスペース)でリラックス

時にはスヌーズレン(カームダウンスペース)でリラックス

子どもたちが気持ちを表しやすい「きもち日記」:富士通が提供

子どもたちが気持ちを表しやすい「きもち日記」:富士通が提供

 

2日目は、イオン新百合ヶ丘店のクワイエットアワープロジェクトと、発達障害の子どもを対象にした川崎フロンターレの選手によるサッカー体験教室が行われた。

人混みが苦手で、光や音に敏感な人にとって、明るく、大音量で音楽が流れるスーパーは居心地が悪い。イオン新百合ヶ丘店では、クワイエットアワープロジェクトとして特別に朝の9時から1時間、照明を暗めに設定し、音を極力排除した営業を行うことで、感覚過敏の特徴のある方に安心して買い物をしてもらおうという試みだ。

また、サッカー体験では、前日に試合を終えた選手自らサッカー教室の先生となって、子どもたちとサッカーによる交流を行った。

フロンターレの選手によるサッカー教室

フロンターレの選手によるサッカー教室

後日、保護者からは、以下のような様々な声が寄せられた。「夢のようなひと時を過ごさせていただき、感動した。」

「これまでは家族で行くのは諦めることが多かったスポーツ観戦だったが、今回のイベントをきっかけに新しい世界が広がった。」

「親同士の交流もでき、お互いにいろいろなことが共感できる安心感は今までにないものだった。子どもは新しいことに挑戦できたという自信を確実に持てたと思う。」

「一生忘れることのできない思い出となった。」

子どもにとっても、親にとっても、そして、プロジェクトにかかわった多くの人にとっても新しい世界に踏み出すことのできる大切な経験になったようだ。

親子でサッカーを楽しむ様子

親子でサッカーを楽しむ様子

 

ロンドン五輪後に変わった街・ロンドン

成沢さんは既にセンサリールームが常設されているイギリスの競技場を参考にするため、観光旅行のついでに足を運んだそうだ。2012年のロンドンパラリンピック後、イギリスの競技場では、センサリールームの設置が一般的になってきている。2012年をきっかけに、国民の意識が変わり、社会の意識が芽生えたことが理由の一つだと考えられる。

2020年にオリンピック・パラリンピックを迎える日本・東京の意識はどう変わるか?

 

私たちが目指すべき社会づくりとは

以前のスポーツ観戦イノベーションの記事でも取り上げたが、いろいろな個性の人々が同じようにスポーツやエンターテイメントを楽しむことができると、社会はもっと新たな可能性を見出すことができる。それは社会がよくなるというだけでなく、経済的な成長も意味するだろう。

成沢さん曰く、今回はサッカー、スポーツを通じて行ったが、変わるきっかけは文化や芸術、エンターテイメントなどなんでもいいという。

これまでの枠の中から出ないで「今までやっていないから」「責任をとれないから」といって、新しい一歩を踏み出さないと世の中はいつまでもこのままで、変わることはできない。スポーツでなくてもいい、映画でも、演劇でも、コンサートでも、勉強でも、私たちが一人一人のフィールドの中で、何をすることができるか?を考えることが大切だ。

ボランティアではなく、世の中にさらなる価値を生みだしていくために、今排除されがちな人たちをどう巻き込んで、よりよい社会づくりを目指していくか?日本社会の未来は、我々の意識に託されている。

 

 

取材・文: 岸本かほり
Reporting and Statement: kahorikishimoto

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