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Dec.

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4 Sep. 2020

WE ARE GOLD~切断ヴィーナスファッションショー~

八木まどか
メディアプランナー
八木まどか

約半年前までは、東京2020パラリンピックの開会式を予定していた、8月25日。

世の中の状況がどんなに変わろうとも、挑戦し続けることは美しい、そう教えてくれるファッションショーが、東京から発信されました。

 

義足を使う女性たちがモデルとして出演するファッションショー「切断ヴィーナスファッションショー」。cococolorでも過去に取り上げてきました。

中心となってこの企画を続けてきたのは、パラアスリートを撮り続けるカメラマン・越智貴雄さん。14回目の開催となった今回のテーマは、「WE ARE GOLD」。「地球」という表彰台に立っているすべての人が金メダリストである、という思いが込められています。

この日は12名のモデルが出演し、Takanawa Gateway Festから世界中にライブ配信され、国内外のメディアに大きく取り上げられました。

 

こちらのリンクよりアーカイブ視聴ができます

 

これは本当に義足!?

ショーは驚きの連続でした。

 


トップバッターを務めた海音(AMANE)さん(©越智貴雄)



衣装デザインも担当した須川まきこさん(©越智貴雄)

 

第一幕のテーマは「独創」。

トップバッターの海音さんがクールな制服姿で登場。それに続けて、須川まきこさんは電飾で輝く花が付いた義足とミニ丈の振袖姿を披露したほか、金色に輝く宝石のような両足義足を披露した湯口英里菜さんなど、「これが義足!?」と目を疑いました。

動画配信中のYouTubeのコメント欄にも「かっこいい!」「おしゃれ」などと多数投稿されていました。

 

第二幕は「パラアスリート」。

大西瞳さん、村上清加さんなど6人のパラアスリート(※1)が、陸上競技のスタートダッシュのように勢いよくランウェイを駆け抜けました。

 

第三幕は「天女の羽衣」。

フィナーレでは、白い羽のような衣装をまとったモデルたちが、思い思いのポーズで自分を表現した後、12人全員が集まって画面越しの観客へ笑顔で手を振りました。


フィナーレでは12人のモデルが集合(©越智貴雄)

 

 

美しさは、喪失から立ち上がる瞬間に生まれる

モデルたちは様々な思いをもって、舞台に上がりました。

たとえば、海音さんは5歳からキッズ&ジュニアモデル、10歳から12歳までアイドル活動をしていましたが、12歳の時に多発血管炎性肉芽腫症になり、右足膝下を切断。ずっと義足を隠してきましたが、今回初めて、義足を付けて舞台に立ちました。


海音さん(©越智貴雄)

 

また、パラ陸上競技で東京パラリンピックの推薦内定を持つ前川楓さんは、終了後のインタビューで「まるで開会式みたいで、涙が出そうになった」と笑顔で語ったそうです。


前川楓さんのこのポーズはAFP通信など海外メディアも沸かせました(©越智貴雄)

 

このほかにも、越智さんのFacebookには、今回のショーや「切断ヴィーナスチャリティーカレンダー」(※2)に出演したモデルたちが、脚を切断し、義足と出会い、仕事やスポーツ・表現活動などを通して輝き始めるストーリーが紹介されています。

 

もともとモデル・アイドル活動をしていた海音さんが「義足を隠したい」という時期があったように、体の一部を失うとは、心の拠り所をも失うような辛い経験でしょう。しかし、再び自分の意志で立ち上がろうと決意した瞬間があるからこそ、モデルたちは皆、それぞれ美しかったと感じました。

 

また、総合プロデューサーを務めた義肢装具士・臼井二美男さんなど、様々な人が彼女たちに輝いてほしいと思いをこめて舞台を用意してきました。

その最高の舞台を、彼女たちが時にはにかみながら、堂々と歩く。彼女たちの内側から感じられる「立ち上がるエネルギー」と、支える人の熱量が細部にまで表現された時間でした。

 

 

義足は、「補うもの」から「纏うもの」へ

斬新なデザインの義足が多数登場した今回のショーは、ファッションの意味も拡大する可能性を感じました。

衣装デザインも担当した須川さんは「『ファッションは生きる免疫を与えてくれる』という思いからファッションの一部としてカッコよく義足を履きこなして」いるそうです(引用:越智さんFacebook)。

また、カーボン製のスポーツ用義足だけでなく、ロボット技術を活用した義足など、技術革新が急速に進む義足の世界。

義足が、体の一部を補うものではなく、いずれは社会の中で自然に存在するものとなり、まさにファッションとして気分に合わせて纏う未来も、そう遠くないように見えました。

 

もちろん、低価格化、流通範囲の拡大、開発者の育成、ユーザーの使用感の可視化など、課題は多くあります。スポーツやファッションだけでなく、さまざまなジャンルから、義足が社会との接点を増やしていくことも大事でしょう。

 

舞台に立ったヴィーナスたちから、私たちは多くの気づきを受け取れるのではないでしょうか。

 

 

※1

今回出演したパラアスリートも出場する、
第31回日本パラ陸上競技選手権大会が9/5~6にて開催され、
9/5の試合の様子は、ライブ配信等で視聴できます。

「TOKYOパラスポーツ」
https://tokyo-parasports-ch.com/ 

 

※2「切断ヴィーナスチャリティーカレンダー2021」

今回のショーに出演した8名のモデルたちを越智さんが撮影したカレンダー販売中。

モデルたちが脚を切断し、絶望していたときに、彼女たちに寄り添って生きる力をくれた看護師さんに「ありがとう」の気持ちを込め、売上金(販売経費手数料を除く)は全額、東京都看護協会に寄付されます。

販売はショッピングアプリ「BASE」上にて好評発売中。(1,300円+送料)

https://gisoku.base.shop/items/31329522

 

 

主催:切断ヴィーナスプロジェクト

総合プロデューサー:義肢装具士 臼井二美男

特別協力:東日本旅客鉄道株式会社

協力:公益財団法人鉄道弘済会

プロデュース・演出:澤田智洋

ファッションディレクター:菅井葉月

衣装デザイン:須川まきこ、衣装制作:須能昌恵、靴制作:MUZINA

スタイリスト:辻谷朱美、ヘアメイク:岸順子・T.KADOKURA、

舞台装飾サポーター:CHIKAKEN、衣装サポーター:天女の羽衣、DJ:DJ KAnaME

代表責任者:写真家越智貴雄

 

取材・文: 八木まどか
Reporting and Statement: yagi

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