cococolor cococolor

24

Apr.

2024

news
25 Oct. 2015

進化するボーダレスの創造 –世界初のパフォーミング・アート:SLOW MOVEMENT始動-

それは、わずか15分ほどの出来事だった。東京都渋谷区青山の国連大学一階。ファーマーズ・マーケットで賑わう空間の片隅に用意されたスペースに、白い衣装に身を包むパフォーマーたちが集結する。舞台上部を飾るのは、風と光を感じさせるインスタレーション。中央には、ヨットや八分音符のように見える電動アシスト車椅子「&Y(アンディ)」が設置されている。

DSC_7499s(コスチュームデザイナー武田久美子による斬新なデザインの衣装に身を包む)

パフォーマーは、サーカスアーティストの金井ケイスケ、義足の女優・ダンサーの森田かずよ、そして公募で選ばれた13人の一般市民たち。年齢、職業、性別や、身体的個性も多様な面々だ。テーマは「多様性と調和」。詩人・三角みづ紀が書き下ろした「The Eternal Symphony」という一編の詩からインスピレーションを得て、作品全体が構成されている。
DSC_7504s
車椅子は青い光を放ち、車輪は叩くとドラムを奏で、帆はスピーカーとして機能する。パフォーマンス終盤、波の音をたてるスティックは観客席に手渡され、観客たちはそれを互いに手渡しあうことで、自らも自然と、パフォーマンスの一部になる。
DSC_7505s

DSC_7506s
見る、見られる側の境界を越えて、場に居合わせた人たちが自然に共鳴し合う、人の身体的表現の美と、先端技術の融合したパフォーミング・アート、SLOW MOVEMENT(スロームーブメント)。終了後、会場には大きな拍手が響き渡った。
DSC_7511s
DSC_7514s
このパフォーマンスをプロデュースしたのは、大量生産ではできないものづくりを目指すスローレーベルだ。「多様性と調和」をコンセプトとするSLOW MOVEMENTが目指すものとは何なのか。パフォーマンス終了後は、スローレーベルのディレクター栗栖良依氏を進行役に、パフォーミング・ディレクターの金井ケイスケ氏、電動アシスト車椅子を共同で開発したヤマハ発動機株式会社の長屋明浩氏(デザイン本部本部長)とヤマハ株式会社の川田学氏(デザイン研究所所長)、デフの振付家・アーティストの南村千里氏、スパイラル/株式会社ワコールアートセンター チーフプランナーの松田朋春氏をゲストにトークイベントが開催された。

東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年をターゲットイヤーとしてスタートしたSLOW MOVEMENTは、2014年に開催されたヨコハマ・パラトリエンナーレのパフォーマンスの発展形だ。「観に来てもらうのではなく、人々がいる場所に出向く」という形をとった今回のパフォーマンス。作品の重要な役割を担ったのが、ヤマハ発動機/ヤマハが共同開発した「&Y(アンディ)01」だった。

DSC_7592s(&Yについて語る登壇者たち)

「いろいろな人と共に」という意味の「&(アンド)」とヤマハの「Y」から命名された「&Y」。誕生のきっかけとなったのは、2014年に渋谷ヒカリエで開催された「超福祉展」だった。ヤマハ発動機の製作したスタイリッシュな電動アシスト車椅子からインスピレーションを得た栗栖氏が、ヤマハ発動機/ヤマハに問い合わせ「乗り物と楽器を手がける両社で、パフォーマンスで使える、音を奏でる車椅子を是非つくって欲しい」と直談判した。技術者やデザイナー、アーティストらと共にブレストを重ね、アイデアの共鳴の中で生まれた「&Y」。車椅子のヨットのような形は、三角みづ紀氏の詩に登場する「船」にも通じたインスピレーションから生まれた。ヤマハの川田氏は「アドリブ・セッションから生まれたような作品だった」と振り返る。「この作品にはInclusive(包括的)、Interactive(双方向性)、Inspiring(刺激的)という三つの inを感じたと、ヤマハ発動機の長屋氏は語った。

「アートは(鑑賞者を)わかる人、わからない人に分けてしまうところがある、けれどもスローレーベルのこの作品は、すべての人を一つの大きなバスに乗せてしまうような力がある」とスパイラルの松田氏が語るように、鑑賞者側のバリアさえも取り除こうというのは、非常に革新的なアプローチと言える。来年のSLOW MOVEMENT2では、デフの振付家・ダンサーの南村氏が参加し、今回のパフォーマンスで重要な要素だった「音」を、音が聞こえない人の感性で視覚化することに挑戦するという。「音を色で表現してはどうか」「楽譜にしては」。トークではさまざまな意見が交換された。
DSC_7601s
1025日は新豊洲で、2回目のパフォーマンスが開催される。東京オリンピックの開催予定地の狭間にあるこの空間は「SPORT x ART(スポーツ・バイ・アート)」をコンセプトに開発される。コミュニティとつながり、スポーツやアートを軸に、新しい価値が次々生み出される場を、銀座から車でわずか5分ほどの都心部に創造する。「ゆっくり、けれど、誰より先を行っている」スロームーブメントの挑戦はこれから全国各地、そして世界に向けて展開されていく。

DSC_7432s(新豊洲エリアの小学校での練習風景)

参考:2020年日本の姿が見えてくる〜ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014 

映像: SLOW MOVEMENT – The Eternal Symphony -1st mov. AOYAMA

 

取材・文: co-maki/今井麻希子
Reporting and Statement: co-maki-imaimakiko

関連ワード

関連記事

この人の記事