トランスジェンダーが自分らしく働ける会社へ①~当事者編~
- ビジネスプロデューサー
- 秋田ゆかり
「出世に響く。仕事上、悪い影響しかない。」
「だいぶ理解はされて来てはいるが、職場でバレたら恐らく続けてはいけないと思う。」
電通ダイバーシティ・ラボ「LGBTQ+調査2020」によると、こういった仕事への影響を感じ、生きづらいと感じるLGBTQ+当事者は多数にのぼることが分かっています。(上記回答は原文のまま紹介しています。)
そのような状況の中、LGBTQ+当事者が自分らしく働ける会社にしていくためには、どのようなアクションが必要なのでしょうか?そのヒントを探るべく、今回の連載企画では、当事者・管理職・コーポレートそれぞれの目線でインタビューを行いました。
第1回の本記事では、社会的に、そして身体的に女性へと性別移行をし、戸籍と名前を変更した大島さんにお話を伺いました。
2016年電通入社。初任はラジオテレビ局に配属。その後電通デジタルに出向し、2019年より現在の第3統合ソリューションへ帰任。電通ワカモンにも所属しており、Z世代をターゲットとしたプランニング業務を中心に従事。
―まずは、ご自身のセクシュアリティを認識した時のことを教えてください。
物心ついたときから、おもちゃだったり、遊び方だったり、喋り方だったり、当時の女の子がよく選ぶ、表現するようなものを自分から自然と選んで生活していました。親も友達も何か違和感を示すわけでもなく、私の選択を受け入れてくれていたように思えたので、自分の身体的なセクシャリティに違和感はありつつも、気にすることはなく生活していました。
一方で、中学生になると、これまでの生き方をしていると、いじめを受けたり、つらい思いをしたりするのではないかと思うようになりました。そのため、目立たないように、男性の振る舞いをし始めました。その振る舞いは、社会人に入ってカミングアウトをするまで続けていました。
(幼少期の大島さん。人形遊びが大好きだったようです。)
―社会人になってから、性別移行を行うという大きな決断をされたと思いますが、そのきっかけは何だったのでしょうか?
コロナによる働き方の変革は、大きなきっかけでした。
社会の目が気になるからこそ、これまでは目立たないように男性の振る舞いをしていましたが、コロナの影響で非対面でのコミュニケーションが増え、社会の目がどんどん気にならなくなりました。
その時に、「自分の思うように生きることができるかもしれない」と思い始め、性別移行を考えるようになりました。
―現在働いている会社で、カミングアウト・性別移行をしようと考えた背景を、ぜひ教えてください。
本当は今の仕事を辞めようかなと思っていた時期もありました。一度社会から離れた方が、カミングアウトすることの怖さや、働きながら性別移行を進める大変さを感じないで済むし、周りの人にも気を遣わせる必要がないと思っていたからです。
でも、自分のやりたかった仕事ができている現状と、素敵な職場仲間に囲まれて居心地良く仕事をしているこの環境を、性別が理由で手放したくない・諦めたくないと思うようになりました。
だからこそ、この会社で一度チャレンジしてみようと思い、上司の菅本さん(連載第2回記事で紹介予定)にカミングアウトをしました。
―性別移行にあたり、まずはどのようなアクションを取っていったのでしょうか?
性別移行をする前は、私の中で、自分らしくいられる世界と本当の自分を知られてはいけない世界の2つの世界がありました。
常に自分らしくいられるためは、どういう風に自分を伝えれば良いのか、どう伝えれば状況を理解してくれるのかを考えることから始めました。
当時は親にもカミングアウトをしていなかったのですが、カミングアウトした後は一番の味方になってくれ、社会生活をどうしていきたいかを親と相談するようになりました。
(性別適合手術前の大島さんとお母さまの写真。手術先のタイまで同伴してくださったそうです。)
―会社では、性別移行に伴い、どんな行動をしていきましたか?
会社では、➀自分の状態を取引先含む関係者に知ってもらうこと、②名前を変更することの2つのアクションが必要でした。
➀については、上司の菅本さん(取引先へは営業)から説明をして頂きました。どんな反応でも良いから教えてほしいと菅本さんにはお願いしていましたが、私の決断を応援してくれる反応が多く、すごく嬉しかったのを覚えています。
また、②についても、菅本さん経由で、人事部に掛け合って頂きました(連載第3回記事で紹介予定)。名前が変わった後は、本来の自分とギャップを感じる部分は、会社でもほとんどなくなったと思います。
―やはり、上司の菅本さんの存在は大きかったのでしょうか?
とても大きかったです!
当時の私はまだ自信もなく、状況を理解してもらえるのだろうかとビクビクしていた時期でもあったため、菅本さんが各所に説明や交渉をしてくださったことに、大変感謝しています。
また、名前の変更はもちろん、性別移行を進めた社内の前例がなかったので、自分が本当に実現できるのだろうかと不安に感じていましたが、菅本さんが常に私の気持ちを尊重し、応援してくださり、精神面で強くサポートをして頂いたことも、とても大きかったです。
(左から、上司の菅本さん・大島さん。)
―様々なアクションを行ってきたかと思いますが、特に大変だったことはありますか?
菅本さんをはじめ、周りの方から本当に沢山のサポートを頂けたので、ありがたいことに心から大変だと感じたことは殆どありませんでしたが、社内の名前が切り替わるまでは少しつらい期間でした。
当時、前例がなかったこともあり、名前を切り替えることができるシステムに整えて頂けるまでに1か月程度かかってしまったのですが、その間も仕事は続けていたため、女性として働きたいのに、男性として受け取られやすい名前が表示されている状況で、どういうスタンスで仕事をすれば良いのだろうというところに悩んだことはありました。
思い返すとその期間は少しつらかったように思いますが、それ以上に周りの方に沢山助けて頂けた思い出の方が大きいです。
―嬉しかったことについても、ぜひ教えてください。
周りの方々にすごくポジティブな反応を頂けたことがとても嬉しかったです。
先ほど応援してくれる反応が多かったことをお話しましたが、社内で正式に名前変更がされる前から、「大島くん」から「大島さん」呼びに変えてくれたり、「佳果ちゃん」と呼んでくれる人も増えたりしたのは、本当に嬉しかったです。こうして良かったのだと心から安心できました。
また、呼び方は変えるけれども、これまでと変わらないコミュニケーションを取ってくれたことにも感謝の気持ちでいっぱいです。
―性別・名前変更後に、ご自身の中で変化したことはありますか?
大げさかもしれませんが、とにかく人生が明るく、そして楽しくなりました。もうこれまでのように振る舞いを無理に変える必要もなくなり、コミュニケーションを取ることが一層楽しめるようになったと感じています。
(名前変更後に撮影した記念写真。個人情報保護のため、大島さんが持っている社内IDカードにマスキング対応をしています。)
―性別・名前変更後の働きやすさは、いかがでしょうか?
とても働きやすくなりました!
例えば、昔の私は打ち合わせの雑談などをできるだけなくして、なるべく自分のことを知られないように必死でした。それくらい、プライベートではない、社会生活で関わる方とのコミュニケーションを恐れていました。
でも、性別・名前変更後は、自分の率直な気持ちを表現できたり、前よりも良い関係になれた方々が増えたりしたような気がしています。今までより何十倍も楽しく仕事をさせて頂けております。
―最後に記事を読んでいるみなさまに一言お願い致します!
(LGBTQ+当事者だと)今の社会で生きていく中で大変なことやつらいことが、まだまだあることは事実だと思います。確かに私にとっても1つの大きな人生の葛藤ではありましたが、その葛藤を抱えていたからこそ、築けた人間関係もあり、楽しいことや嬉しい出来事も本当に沢山あったと思っています。これは私の1つのバックグラウンドでしかなく、それが全てではありません。そして誰しも色々なバックグラウンドを持ちながら生活しているのと同じで、そこに違和感を覚えても表出させるのではなく、何も特別ではない1つの事実として受け止めて頂けると嬉しく思います。そういった社会が広がれば、LGBTQ+に限らない、誰しもが生きやすい人生を歩めるのではないかと思っています。
さいごに
大島さんへの取材は、終始あたたかく朗らかな雰囲気で行われました。
この雰囲気を味わいながら、自分らしく楽しく働ける人が増えることは、とても素敵なことなのだと、改めて私も実感しました。
大島さん自身も、周囲の人から性別移行後の働きぶりについて、ポジティブな意見をもらうことが多くなったようです。
1人でも多く、自分らしく働ける環境を作るにはどうしたら良いのか…次回以降の記事でも考えていきたいと思います。
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