「WorkCAN’s企業合同ピアサポート研修」に参加して
- 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント
- 高田愛
働くがんサバイバーも
生きやすい世界をつくるために
9月8日「WorkCAN’s(ワ―キャンズ)企業合同ピアサポート研修@オンライン」に参加した。本研修は、”ピアサポート”の実践のために必要な基本知識やスキルの習得に取り組むものである。”ピアサポート”とは、同じ課題を抱える者が集まり、それぞれの状況での自分の体験や行動、考えなどを語り合うことにより支え合う活動を指す。ここでの学びをみなさんに共有したい。
基本的な傾聴スキルに加え
自身の体験を役立てる
ワーキング・ピアサポーター養成講座では、講師に一般社団法人CSRプロジェクト代表理事の桜井なおみさんを招いて行われた。前半は、日本のがんの現状と基礎知識を学び、後半ワーキング・ピアサポーターの役割と基礎知識、留意点、最後に実際に相談されたことを想定してロールプレイを行った。
このロールプレイが凄い。ピアサポーター役、相談者役、観察者役、ファシリテーターと役割を与えられる。その後、各グループで発表し感想をシェアする。最初の相談内容は「自分が“がん”になるなんて想定もしていなかったのでショック。なんで自分だけが。仕事はどうなるのか不安でいっぱい。」というもの。それに対して、それぞれ役になり切ってロールプレイしてみた。
先に説明した通り、まずは傾聴する。冒頭で、話してくれた相手に「話してくれてありがとう」を伝える。自分の経験は一経験として伝える。ピアサポーター側が話しすぎない。相手の価値観を尊重し、ピアサポーター側の価値観を押し付けない。など、事前に基礎知識や留意点をINPUTしていた。
本当に相談される側に
なりきってみると
が、実際やってみると、なかなかこれが難しい。まず、初っ端で「話してくれてありがとう」の言葉が、のどから出てこない。何故かというと、はじめて“がん”であることを伝えられた時にショックだし、びっくりしてしまって、とても言えなかったとのこと。傾聴も、自身の経験を「私の場合は」と語ることも概ねクリアできる。しかし、自分の経験でぶち当たった問題に触れると少し難しくなる。
自分の体験は一つしかない
2つ目のお題は「がんと診断されて手術か放射線治療と言われた。妹が心配して毎日電話をくれる。妹に免疫療法を薦められた。どうしたものか。」私の時も、主人は毎日リンゴとニンジンをすりおろしてくれたし、母は重粒子線を薦めるし、先輩はビタミン点滴を勧めるし、整体で治してあげるという人もいるし、とにかく体温を上げろというひとも・・・・・・キリがない。そもそも、本人が一番混乱しているのに、周囲は良かれと思ってあらゆる情報をくれる。その経験を、横に置いて相手の話を傾聴しなければならない。標準治療を信じている人、そのほかの治療を信じている人・・・・・・何が正解かわからない中で、相談者と一緒に考えることのなんと難しいことか。
講師である桜井なおみさんは、ピアサポーターの対応にマニュアルや唯一の正解はないと言っている。だから、うまくできたところは自信に、うまくいかなかったところは気づきとして持ち帰ることと最後に結んでくれた。確かに、自分の体験は一つしかない。それでも「支えられた経験を支える力につなぐ」という言葉通り、難しくても、想定して訓練しているのとそうでないのでは、全然違うとも実感。学びの多い講座であった。
がんになってから、この経験が人の役に立つなんて思いもせず、10年も過ごしてしまった私だが、2018年に会社の先輩である御園生泰明さんに出会って意識も行動も変わった。働き盛りのがんサバイバーは、身近で働くがんサバイバーと話したい。ワーキング・ピアサポーターとは、企業内や業種内など、「働く」という共通事項(ピア)の中で、自分の就労体験とがん体験を活かし、就労者(求職者・休職者含む)に特化したサバイバー支援を行うサポーターとする。
そもそも“がん”の経験が人の役に立つなどと“がん”に罹患した当時の私は思いもせず、隠しはしていなかったが、10年もその発想はなかった。先輩である御園生さんが、働くがんサバイバーと話したい。できれば、自分の部位やステージが近い人とつながりたいと話したことがきっかけで、今、社内外でがんサバイバーをサポートする活動を始めている。活動を始めると、がんサバイバー自身は、表に出る出ないは別にして、自分の体験を人の役に立つのなら役立ててもいいと多くの人が言ってくれるのだ。ワーキング・ピアサポーターの輪が今後も広がっていけば、働くがんサバイバーたちの孤独が少しでも払拭できると確信する。
セミナー概要
日時)9月8日(火)14:00~17:00
実施形態)Web会議システムZoomを活用したオンライン研修
対象)各社のがん経験者コミュニティメンバーならびに支援者(受講者:4社合計39名)
内容)①一般社団法人CSRプロジェクト代表桜井なおみ氏による講義
・日本のがんの現状について
・ワーキング・ピアサポーターの基本スキルや留意点について
②参加者によるロールプレイング等グループ演習
参考資料
リリース「WorkCAN’s(ワ―キャンズ)企業合同ピアサポート研修を実施」
https://www.dentsu.co.jp/news/topics/2020/0909-010129.html
注目のキーワード
関連ワード
-
こども食堂Kodomo Shokudou
地域住民や自治体が主体となり、無料または低価格帯で子どもたちに食事を提供する場。「子どもたちへの食事提供の場」としてだけではなく、高齢者や共働きの家族などが集まって食事をとることも可能で、地域のコミュニ…詳しく知る
-
ポテンシャルドライブPotential Drive
これからの働くを考える企業横断プロジェクトチーム「ワークリードプロジェクト」が提唱する、これからの時代にあるべき”働く”を考え、作り上げていくための指針としての概念。 「ひとりひとりが秘めたポテンシャルを最…詳しく知る
-
ユニバーサルツーリズムUT
すべての人が楽しめるよう創られた旅行であり、高齢や障がい等の有無にかかわらず、誰もが気兼ねなく参加できる旅行を目指しているもの(観光庁HPより)。http://www.mlit.go.jp/kankocho/shisak […]詳しく知る
関連記事
この人の記事
-
20 Apr. 2023
インクルーシブデザインをやってみる キッズ向け「くるくるデザインワークショップ」レポート
- 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント
- 高田愛
NEWS, ピープルデザイン, こども哲学, アンコンシャス・バイアス, インクルーシブ・マーケティング, 子育て, インクルーシブ・デザイン, ワークショップデザイナー, ファシリテーション, アート, 子ども, 障害,