刺身のつまから考える家族のかたち~家族のかたちの現在地②~
- 副編集長 / ストラテジックプランナー
- 岸本かほり
ある日、パートナーとスーパーで買ったお刺身を食べていました。
「刺身のつま、食べる?」
刺身のつまとは、刺身のそばに添えられた大根や海藻のことを指します。生魚の殺菌効果や、刺身の見栄えをよくする役割があるとされています。何気なく使っているこの“つま”という言葉の語源を調べると、「妻」という漢字があてられることが多く、意味としては「主となるもののそばにあるもの」「脇役」といった意味があるそうです。※諸説あります。
日本語には古くからの家庭内での役割や立場を、暗喩するような言葉が多く存在しています。
今年電通グループは、東京レインボープライドにて『Rainbow Gallery of Words 言葉のレインボーギャラリー』をブース出展しました。その中の1つに、「性・ジェンダーの偏りを可視化する「言葉の天秤」という展示がありました。
この展示では、「夫」「彼女」など性別がどちらかに偏っている言葉と、「配偶者」「パートナー」などニュートラルな言葉を天秤で測って確かめることができました。
今回は、言葉というテーマで家族について考えていきたいと思います。
対等な言葉って意外と少ない!
家庭内外でパートナーを指すときの「旦那」「亭主」「主人」「嫁」「奥さん」「家内」「女房」といった言葉は、それぞれ対等ではなく役割や主従関係をあらわす意味があります。
例えば・・・
旦那:もともとサンスクリット語の「ダーナ」(=与える、施す、布施)から来ており、お布施をくれる人を指す。
主人:家の長、あるじといった意味で、仕える人の存在・隷属関係を感じさせる。
家内:家の中にいる人という意味。男性が外、女性が家という考えを連想させる。
奥さん: もともとは人前に出ることの少ない武家階級などの配偶者を「奥方」「奥様」と呼んだことに由来する。
姉さん女房:夫婦は妻が年下というのが一般的という男性目線での言葉になっている。
上記に対して、対等な言葉としては、「夫」「妻」があり、ジェンダーの偏りがない言葉として「配偶者」「パートナー」「相方」などの言葉があります。
また、子育てをする中で、ごくたまに「父兄」という言葉が出てくることがあります。これは家父長制時代からきている言葉であり、現在は男尊女卑を思わせるとして多くの場所では使用されていない言葉です。代わりに「保護者」という言葉が広く使われています。
言葉は新しい生き方を後押しできる
最近では、古い価値観からつけられたモノやサービスの名前を変えて、新しい生き方や家族の在り方を後押しする動きがあります。
例えば「母子健康手帳」を「親子健康手帳」として名前をリニューアルしている自治体が増えています。予防接種や身長・体重といった子どもの成長・健康管理の記録に必要不可欠な手帳ですが、母子が親子という言葉に替わり、母以外でも成長を記録し一緒に管理していくことが推奨されているように感じます。
実際に私のパートナーは子どもを病院に連れていって、母子健康手帳を出すときにどこか居心地の悪さを感じていましたし、診察後は母である私に返さなければならないものだと感じていたようで、この名称変更にとても喜んでいました。
言葉は日々変化する生き物のようなもの。語源や元々の意味にとらわれすぎて言葉狩りをすることが正解ではないと思います。
ただ、コミュニケーションは受け手がどう感じるかが重要。これまで使われてきた言葉に疑問を持ち、向き合うことによって、生きにくさを感じている人の存在に気づくことができます。よりよい社会や生き方のためにこれからも言葉について考えていきたいです。
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