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May.

2024

interview
12 May. 2023

さまざまな家族のかたちが尊重される社会へ~明石市の取り組み~

増山晶
副編集長 / クリエーティブディレクター/DENTSU TOPPA!代表
増山晶

昭和の時代に「標準」とされた夫婦と子ども2人の核家族世帯の割合が減り、単独世帯が増えるなど、家族のかたちは時代とともに移り変わっています。超高齢・少子化もすすみ、ひと昔前の家族像にとらわれずにこれからの社会を考えることが、ますます大切になっています。

また、LGBTという言葉の認知が8割を超えるなど、LGBTを含む性的少数者、LGBTQ+*の認知もすすんできました。
電通ダイバーシティ・ラボ「LGBTQ+調査2020」
*LGBTQ+:レズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシュアル(B)、トランスジェンダー(T)の頭文字であるLGBTに、LGBTだけでは表せない多様な性のあり方(Q+)を組み合わせた、セクシュアル・マイノリティの総称。

2015年に東京都渋谷区、世田谷区で導入されたパートナーシップ制度は、2023年3月現在、導入自治体が少なくとも271となっています。
MARRIAGE FOR ALL JAPANホームページより

そんななか、2021年1月に兵庫県明石市は日本の自治体で初となる「明石市パートナーシップ・ファミリーシップ制度」をスタートし、パートナーである2人だけでなく、子どもも家族として届出できることとしました。同制度の施行に先駆け、2020年には2名のLGBTQ+/SOGIE**施策担当職員が採用されました。そのおひとりである増原裕子さんをはじめ、明石市政策局インクルーシブ推進室LGBTQ+/SOGIE施策担当の佐川さん、森さんの3名にお話を伺いました。


(左から 明石市政策局インクルーシブ推進室LGBTQ+/SOGIE施策担当の佐川さん、増原さん、森さん)

■パートナーシップ・ファミリーシップ制度導入の背景

―制度導入のきっかけは?

(佐川さん)2018年に市内で初めてのLGBTQ+支援団体が発足したことがきっかけです。同団体が活動を進める中で、議会でも市の施策やパートナーシップ制度の検討を望む声が上がりました。そして全国から専門職採用をし、2020年4月に担当部署が発足しました。

制度導入にあたっては、この課題に関わる有識者・支援者のアドバイザー会議、および、市内の商工業者、医療機関とまちづくり推進組織で構成されるネットワーク会議で、さまざまな角度からの意見をもらうことができました。また、パブリックコメントも実施し、72件の意見のうち明確な反対は1件のみでした。制度名の案の中に、パートナーシップ制度、ファミリーシップ制度の2つがあり、両方にポジティブな意見があったため、併記する形となりました。すでに同性同士で子育て中の家族がいて、子どものお迎えなどで「家族」でないと言われるといった意見もあり、そうした困りごとを解決したいと思いました。


―増原さんご自身も、2015年の東京都渋谷区パートナーシップ制度交付第1号として、当時大きく話題になりました。

(増原さん)パートナーシップ制度の利用経験者ということに限らず、性的マイノリティの一人として、これまでの経験が活きると思い、明石市のLGBTQ+/SOGIE施策担当職員に応募しました。


―ファミリーシップ制度を導入・検討する自治体も増えてきました。現在、30以上の自治体で導入されています。また、名称はパートナーシップ制度ですが、希望すれば子の名前を記載できるなどの対応ができる自治体も10以上あります。

(佐川さん)明石市では、「パートナーシップ」と「ファミリーシップ」を分けてとらえてはいません。制度の届出書は6種類(パートナーシップ届/ファミリーシップ届/結婚届/家族届/事実婚届/〔自由記載〕届)あり、内容は全く同じでタイトルだけが異なります。届出書の選択にあたって、届出される方の属性や家族構成による制限はありません。例えば、パートナーとお二人での届出でも、「ファミリーシップ届」を選択することが可能です。子どもや親なども含めた家族としての届出を希望される方は、上記の届出書に加えて、もう一枚別の届出書(「子又は親等の近親者に関する届出書」)を出していただく流れになります。

明石市パートナーシップ・ファミリーシップ制度は、導入後も、子どもの届出だけでなく介護事情などが想定される親の届出もOKとするなど、マイナーチェンジを重ねています。届出件数は32件と、兵庫県内の他の自治体より多い方だと思われますが、届出の際にLGBTQ+当事者かどうかの確認はしておらず、内訳については分かりません。

(増原さん)LGBTQ+だけを対象としない、男女の事実婚カップルも対象としたパートナーシップ制度は明石市の制度導入時にすでにあり、千葉市など先進的な取り組みを行っていた自治体を参考にして、利用者の性別を問わない制度としました。法的な効果があるわけではないので、効果と要件のバランスを取り、できるだけたくさんの人に使ってもらえる制度にしたいと思いました。

 

―パートナーシップにとどまらずファミリーシップにまで拡張することの意義は?

(佐川さん)もともと市として、子どもや障害者に関する取り組みにも力を入れており、その中で障害をお持ちの方を特別扱いするのではなく、障害が障害になってしまう社会の方を変えていくべきだ、という考えで進めてきました。今回のパブリックコメントやアドバイザーなどとの意見交換でも、「特別扱い」してほしいのではなく、「ありのままを当たり前に受け入れてほしい」という声があったのです。

明石市パートナーシップ・ファミリーシップ制度(チラシ抜粋) 明石市ホームページより

**ソジ―(SOGIE):LGBTQ+だけでなくだれもが持っている性の要素。性的指向・性自認・性表現のこと。

■取り組みの広がりと現場の声

―市民生活の場における困りごとや、パートナーシップ・ファミリーシップ制度をはじめとする市の取り組みの現状をお聞かせください。

(佐川さん)幼稚園、保育園や学校では、身近な問題として、学校生活で困りごとに直面しているLGBTQ+の児童の家族や学校からの相談なども増えてきました。明石市では、児童生徒や教職員向けの出前講座を実施していて、児童生徒向けの講座は初年度6件だったものが昨年では20件となっています。

医療機関では、最初は「どう現場に落としていけばいいか?」でみなさん悩んでいました。市民病院では、先進的な宝塚市立病院の事例等を参考にしながら、ワーキンググループを作って対応の体制を整えています。市としては、市民病院の取り組みを好事例として、ほかの医療機関にも広げていきたいと考えています。また、医師会を経由して、研修や相談窓口について案内しています。

住宅について、公営住宅はパートナーおよび子ども・親と家族として入居の申し込みができるよう対応済みです。明石駅前には、レインボーのステッカーを貼ってくれている不動産屋さんもあります。宅建協会も医療機関と同じネットワーク会議に入ってくれているので、不動産会社にもこれから研修等を進めていきたいと考えています。


明石市LGBTQ+フレンドリープロジェクトのレインボーステッカー

その他、何かしたいと思っている人に対しては、出前講座なども行っていますが、より多くの人たちへ理解を広げていくために、オリジナルの啓発動画をYouTubeにアップしています。

明石市LGBTQ+/SOGIE啓発動画

 

―最後にパートナーシップ・ファミリーシップ制度導入前後の市民の声を教えてください。

(佐川さん・増原さん・森さん)制度利用者のアンケートの一部をご紹介します。

※明石市パートナーシップ・ファミリーシップ制度利用者アンケート(2022年8月)より(抜粋)

 

■今後の展望や課題

―国の対応や他自治体との連携、民間の取り組みなどについて、パートナーシップ・ファミリーシップ制度の先駆者としての思いをお聞かせください。

(佐川さん)この制度の導入のしやすさは、地域性がとても大きく、反対意見が多い自治体は難しかったり、当事者団体から声が上がっているところは導入しやすかったりします。ただ、制度を導入して大きな困りごとが起こったという自治体はほとんどないと思います。自治体間連携については、制度の要件が異なると連携しづらいのは事実であり、明石市でもいまは徳島市との連携のみになります。

明石市の制度はソジ―(SOGIE)を問わないので、結果として事実婚カップルの届出もありますが、そこまで対象を広げるのは難しい自治体もあるようです。自治体でできることの限界はありますが、導入当時の市長からも「制度を作って終わりでなく、使えるものにしていきましょう」と言われました。地道にひとつひとつ、オセロをひっくり返すように取り組みを続けていきたいと思います。

(左から時計回りに cococolor編集部海東、中川、増山、明石市増原さん、佐川さん)

■取材を終えて

LGBTQ+カップルであれ、事実婚であれ、性のあり方や幸せの形がさまざまである限り、家族のかたちもさまざまです。それぞれの家族のかたちをおたがいに知り尊重することから、幸せなまちづくりが始まると思います。自分らしさを大切にできる制度のあるまちが、全国に広がっていくことを期待します。

明石市政策局インクルーシブ推進室ホームページ

共同取材:中川紗佑里、海東彩加

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取材・文: 増山晶
Reporting and Statement: akimasuyama

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