カンヌ受賞作品から考える、人種とクリエイティブ
- プランナー
- 徳永栞
今年6月にカンヌライオンズ2020/2021がフルオンラインで開催されました。カンヌライオンズは毎年6月に開催されている世界最大級のクリエイティブの祭典ですが、2020年は新型コロナウイルスの影響で中止となったため、今回は昨年分も含めた2年分の受賞作品が発表されました。
受賞作品の中には社会課題解決に取り組んだものも多いのですが、①LGBTQ+、②障害、③人種、④女性エンパワメントいう4カテゴリーに分け、特にアンメットニーズに着手している事例をピックアップして連載形式でお伝えしていきます。
※「アンメットニーズ」を、「まだ満たされていないニーズ」の意で使用しています。
第1回目はLGBTQ+をテーマに、第2回目回は障害をテーマに受賞事例をご紹介しました。
第3回目となる今回は、人種をテーマに2つの受賞作品をピックアップします。
人種と時代を超えて功績を称えるプロジェクト
THE BLACK PLAQUE PROJECT(ブランド:NUBIAN JAK COMMUNITY TRUST、国:イギリス)
まずはこちら。
本施策は、過去に功績を残した黒人たちの栄誉を称えるために、BLACK PLAQUEを街に掲出するプロジェクトです。
イギリスでは、栄誉を称える目的で、著名人がかつて住んでいた家や歴史的出来事が発生した場所に、BLUE PLAQUEという青いプレートを掲出しています。※1
例えば、ロンドンでは960箇所以上にBLUE PLAQUEが設置されています。しかし、BLUE PLAQUEによって栄誉が称えられた黒人は全体のほんの1.6%であるという問題がありました。※2
人種の違いによる差別のため、生涯を通じて功績がクローズアップされることがなく、さらに死後もその功績が無視され続けているのです。
THE BLACK PLAQUE PROJECTでは、功績を残した黒人の栄誉を表して、街中に30以上ものBLACK PLAQUEが街に掲出され、彼らの歴史的偉業が広く発信されました。
本施策では、「功績が評価されるべきなのに人種の違いによって長い間評価されてこなかった」というアンメットニーズを解決しています。
THE BLACK PLAQUE PROJECTで紹介されている人には18世紀を生きていた人物もいます。
人種の壁を超え、時代を超え、偉業が広く現代で発信されているところが本施策の意義です。
Design部門のGoldを獲得しています。
BLM活動中のバリケードからできた有権者登録ブース
BOARD OF CHANGE(ブランド:CITY OF CHICAGO、国:アメリカ)
次にこちら。
投票登録を促すために実施した、バリケードで作られた投票ボードを設置する施策です。
2020年の大統領選挙の5か月前に起きたジョージ・フロイドさんの死亡事件。それを機にBLACK LIVES MATTER(BLM)活動が始まり、黒人の人権について注目されました。
アメリカでは有権者登録を実施しないと選挙で投票できませんが、有権者登録していないのかできないのかわからない部分があり、5人に1人が有権者登録していないという現実があります。なかでも黒人が選挙を通じて自らの意志を伝えるためには、有権者登録を促進する必要がありました。
本施策では、BLM活動期間中に店や住宅の窓が割られないように作られたバリケードから、投票登録ブースが作られました。ブースには ”END RACISM” 等の人種に関する想いがこもったメッセージで溢れています。結果、本施策が実施されたシカゴでは歴史的な有権者登録数になりました。
本施策では、「有権者登録をしていないため選挙を通じて声を上げることができなかった」というアンメットニーズを解決しています。
バリケードを使用していて人種についての想いで満ちているブースの設置により、有権者登録という黒人の行動変容につながっていることが本施策の特徴だと考えられます。想いの伝わるアイデアは生活者を動かすことができるのです。
Outdoor部門のGoldとBrand Experience & Activation部門Goldを獲得しています。
上記2事例から分かることは、人種の壁は過去から現代までずっと続いている社会問題であるということです。
THE BLACK PLAQUE PROJECTでは、人種を理由に過去の功績が評価されなかったことに対処しています。BOARD OF CHANGEは、黒人の有権者登録を促進するという今の課題に着目しています。
人種というテーマに対してアイデアの力でどう解決していくか、ということを1プランナーとして、1生活者として考えていきたいと思います。
連載の最終回となる次回は「女性エンパワメント」をテーマにカンヌ受賞事例を紹介いたします。お楽しみに!
※1 参考:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
※2 参考:NUBIAN JAK COMMUNITY TRUST『Black Plaque Project』
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