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27 Aug. 2021

働き女子の人生満足度を上げる。選択するために先人が出来ること。

高田愛
産業カウンセラー/キャリアコンサルタント
高田愛

最近の高校生ってみんなそうなの!? 子宮頸がんかるたを作ったチームLumiereに出会い、驚かされた。彼女たちは、自分の命や将来を守るための選択肢を、奪われていることに疑問を持ち、誰もが、選択できるだけの知識を学べる“かるた”に加え、 “授業キット”まで作り、課題解決のソリューションを提案している。こんな高校生たちが育まれる教育環境や学校方針にも興味を惹かれ、その秘密を品川女子学院理事長の漆紫穂子さんに伺った。

参考記事:Lumiere を取材した記事はコチラ

自分の人生を自分で選択するための逆算思考を身につける

なぜ、こんな高校生たちが生まれたのか質問すると、漆さんは話し始めた。
※女子のターニングポイントはいつか?~女性の年齢別出生率~


「28歳の未来から逆算出来る場を、30年近く前から中高生の授業の中で設けてきました。現在は、“28project”と呼んでいます。出産の選択に関わらず、出産年齢にタイムリミットがあるため人生設計を考える時期が早く来ます。28歳というと人にもよりますが、仕事では経験を積み、リーダーや海外赴任を打診されるタイミングであり、プライベートでは、結婚や出産という選択肢が生まれる、まさに人生のターニングポイントではないでしょうか。私たち世代は、どちらかを諦める人が多かった。どんなに医学が進歩しても、50歳で出産するのは、今はまだ難しい。自分で人生の選択を出来るように、早目に女の子たちに伝えていきたい。ただし、選択するためには、準備が必要です。それが私たちの教育の柱です。」と

「具体的には“28project”として、例えば、問題を発見し、創造的に解決するための“デザイン思考”や企業コラボレーション、起業体験プログラム、多くの職種の方の特別講座などを実施しています。様々な仕事をしている大人と接し、10、20年後に訪れる未来を垣間見ることで、“今”の過ごし方が、少し変わるかもしれません。実際、本プロジェクトの結果も出ていて、卒業生に行ったアンケートによると他校出身者と比較して、自己肯定感やウェルビーイングが高く、離職率が低いなどの結果が出ています。その理由は、自分で自分に合うと思える仕事を選んでいるからではないでしょうか。」と話す。


後悔の少ないほうの選択を

そういう漆さんにとっても、28歳はターニングポイントであった。たまたまとおっしゃるものの、「学校の経営危機」「実母が卵巣がんで余命半年を宣告」などが重なり、天職とも思える教員を辞め、学校改革に参加するため、実家に戻ったのも28歳。偶然ではあるが、人生の岐路に立たされる時期でもあるのかもしれない。

漆さんは、幼いころから教員に憧れ、別の学校に就職していた。非常に充実した教員生活を送っていた最中、廃校危険指数リストに実家の経営する学校が載っていることを知る。自身の教員としての幸せを取るか、実家の経営危機に関わるか、究極の選択を迫られた。後者を選ぶということは困難な場所に飛び込むことにほかならず、個人の夢は捨てなければならない。

究極の選択の結果、戻ることにしたのは、「自分だけがよくても、みんながよくない方を選んだら、結果的に後悔すると思った。なので、後悔の少ないであろう方を選んだ。」とのこと。28歳の時も、地に足のついた漆さんらしい基準だったように感じた。

また、一つのキャリアの形として、お母さまの話もしてくださった。「母は、とても強い人で、若くして病気になるとはだれも思いもしなかった。お医者さんから余命宣告された時も、“私はやることがあるので、まだ死ねない。あと5年は生きます。”と宣言したくらい。その頃、新校舎の建て替えにあと5年、一番下の弟が、まだ中学生というタイミングでもあった。子どもを3人産み育て、経営の大黒柱として経理を務めており、仕事を持ち帰ってやることも多かった。水泳部のため、学校には土地がないプールを創立者(漆さんの曾祖母)の家の土地に建設するため、借入れもしていた。経営、育児、介護とあまりにも忙しかった。あのとき、もうちょっと私が、手伝っていればと後悔しましたね。お互いに意地を張ったまま、ありがとうも言えないうちに亡くなってしまった。母には、自分のための時間がなかったと思います。」と振り返る。

一方、漆さん自身は、個人ではなく、「品川女子学院という人格として生きていくと決めて20・30代は、がむしゃらに仕事をしてきた。自身も入院するような病気を初めて体験したのは40代になってから。若い頃と同じようには働けないことも知った。」という。

目の前のことに集中しすぎて、気づいた時には、選択肢がなくなっている……なんてことも。全く想定していなかった事態が起こっても、自分を見失わないように。自分へのケアの時間を持つことの大切さ。など、ご自身の体験だけでなく、校内外のいろいろな方の人生に触れることで、若い世代に気づく機会を提供していけば、よりよい道を選べるかもしれないと考えているのだ。

 

私は、言っていこうと思った

何をかというと、漆さん自身も、一昨年の12月の人間ドックで乳がんが発覚。昨年の春休みに部分切除術をした。お母さまが卵巣がんだったこともあり、ご自身の乳がんが遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の可能性がないか、検査を行った。

※BRCA1またはBRCA2遺伝子の病的な変異は、性別を問わず親から子へ2分の1(50%)の確率で受け継がれるというもの。(日本乳癌学会(編) 患者さんのための乳がん診療ガイドライン2019年版より引用)

検査の結果BRCA2遺伝子変異が見つかり、病的なものかデータ不足だったが、卵巣と子宮も予防的切除をする決断をしたという。

「当初は、仕事上の関係者と、家族にしか話さなかった。しかし、女性に関する身体の問題は、口にするのをタブー視され、みんなが黙っている。そのため、困っていても誰に相談していいかわからず、患者が孤独になる。」と、気づいたとのこと。

そんなとき、心強かったのが、卒業生で自身も2013年に乳がんとなり、がん全般の啓発活動をしているモデルの藤森香衣さんの存在だという。「①周りの人が、よかれと思っていっぱい傷つけることを言います。②告知から手術までが自殺率が上がります。③がんサバイバーは尊敬されます。術後は、ハイパーシホコになれますよ。④この経験が、品女の子たちの役に立ちます。⑤先生より私が先に経験しているのは運命です。私が調べた情報とネットワークのすべてを、先生に使います。と、言ってくれた。」とのこと。この言葉に、どれだけ勇気づけられ、鼓舞されたことだろう。

そして、「私が病気を公表することで、同じ立場の人や、今後そうなるかもしれない人たちにとっても、何かの助けになるのではないか」と思って、今年の卒業式のはなむけの言葉として、このエピソードを語った。 “女性の体に関する問題は、生理に始まり特有の病気まで、話題にするのがタブー視されるけれど、私はこれを積極的に発言していこうと思う。”と、スピーチしたとのこと。式場の出口で、生徒のお母さんが一人駆け寄ってきて“実は私も明日、同じ手術をします。”と伝えてくださったそうだ。人それぞれ事情は違い、無理にオープンにする必要はないが、漆さんのような立場の人がオープンにすると、逆に心理的安全性が高まる効果のほうが強いかもしれない。

 

I’m OK, you’re OK.な世の中に

性別に限らず、人生を考える上で、あらゆるライフイベントを選択するかどうかも含めて、正しい情報があり、人生に関わるいろんなことを語ることが、はばかられない世の中にしていこうとしている先人たちがいる。皆が、自分自身の選択に納得&責任を持つことで自分の人生に満足し、より幸せになるといい。もちろん、どんなに先を読んでも、想定していなかったことは起こりうる。その時は、応用問題にはなるけれど、日頃トレーニングしていると受けとめ方や、消化スピードも変わるのではないか。

その先に、誰がどんな選択をしても、自分自身に「OK」と思えて、他の人の選択も「OK」と尊重し、尊重される世の中にしていきたいと強く思う。

 

漆 紫穂子さんプロフィール

品川女子学院理事長
東京・品川生まれ。早稲田大学大学院国語国文学専攻科、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修了。 私立中高一貫校で国語科教員として勤務後、品川中学校・高等学校(1991年に現校名に改称)に移る。2003年から卒業後10年目の自分の姿を意識してモチベーションを高める「28プロジェクト」を開始し、06年校長に就任。 17年理事長に就任。教育再生実行会議委員、内閣官房行政改革推進本部構成員。著書に、『女の子が幸せになる子育て』(大和書房)、『働き女子が輝くために28歳までに身につけたいこと』(かんき出版)、 『伸びる子の育て方』(ダイヤモンド社)など。

取材・文: 高田愛
Reporting and Statement: aitakata

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