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Nov.

2024

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2 Dec. 2022

トランスジェンダーが自分らしく働ける会社へ④~まとめ編~

岸本かほり
副編集長 / ストラテジックプランナー
岸本かほり

当事者編管理職編コーポレート編と3回にわたって連載してきた本インタビュー。

最終回である今回は、大島さんと同じ部で、菅本さんの部下でもある筆者が今回のケースからのヒントをまとめたい。

 

本当の自分がばれてしまうのではないか

下記のデータから、職場で困りごとを抱えるLGBTの割合を見ると、LGBよりもトランスジェンダーが突出して高いことがわかる。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング「令和元年度職場におけるダイバーシティ推進事業(労働者アンケート調査)」(厚生労働省委託事業)より作図

大島さんインタビューの中でも、「カミングアウト前は、会社の人と仲良くなりたくても、これ以上踏み込むと本当の自分がばれてしまうのではないか、と不安だった」というコメントがあった。

本来の自分らしさと、世間から求められる姿の間で、同僚たちと仲良くなりたい気持ちと職場での関係性が崩れてしまうのではないか?という不安・葛藤と共に日々を送っている人が多い。トランスジェンダーで性別適合手術を受けたいと望む多くの人(※)が、職場での説明や理解を得ること、カミングアウトにハードルを感じ離職してしまうというデータもある。

その仕事が好きなのに、収入に満足しているのに、周りの人が好きなのに、性にまつわる問題でその職場を諦めなければならないというのは悲しく、改善が求められる実態である。

※トランスジェンダーの人がみな医療行為を希望するわけではありません。

 

最初は壁かもしれない。でも、一度誰かが通ると壁はドアになる

今回のケースは、下記のどの人物が欠けても実現しなかった話である。

・カミングアウトのハードルや、新しい道を切り開く心労を越えてでも、この職場で働き続けたいと思ってくれた大島さん

・部下からのカミングアウトを、プライベートな悩みとしてではなく、自分に課された大切な使命と捉え、架け橋となった管理職 菅本さん

・社員の働きやすさを日々追求し、数年前から幅広いニーズにこたえられるようにシステムの下準備をしていたコーポレート 湯川さん・神尾さん

 

この3者がお互いを信頼した上でスムーズな情報連携があって、今回社として初となる下記が実現。

・戸籍上の変更がなされる前に会社で使用する下の名前の変更

・性別適合手術における休暇制度の使用範囲の拡大

この結果、大島さんはオフィシャルな場での新しい名前の使用実績が認められ、戸籍名を変更。2022年5月に性別適合手術を受け、自分らしい姿と名前での人生をスタートすることができた。

 

前例のない制度・ルールの壁。だが大島さん・菅本さん、そして人事の湯川さん・神尾さんの力によって、壁はドアになった。社の一つの歴史が動いた瞬間である。次に使いたい人が現れた時にはもうこの制度はすぐ使用できる状態になっている。

「弊社の人には前例のないことや、不可能と思われていることを可能にしたいというDNAがある。今回はそれがとてもポジティブに働いたのではないか。」と菅本さん。

ただ、これらは電通だからできた話ではなく、他の企業においても必ず実現可能なことであると信じている。

 

「当事者にとって働きやすい職場」は「みんなにとっても働きやすい職場」に

同じ部の部員として、そして同僚として近くで大島さんの新たな一歩を目の当たりにして、確信したことが3つある。

一つ目は、性的マイノリティやあらゆる人にとって働きやすい職場環境・制度作りによってもたらされるメリットは決して当事者だけが受けるものではないということ。

管理職編で、「多様性のあるチームは強い」という話があった通り、コロナ禍・リモート環境という状況だったが、大島さんが大きな一歩を踏み出したことをきっかけに、所属部の雰囲気はお互い何かに困ったら助け合っていこう、という結束の雰囲気ができた。部長である菅本さんの「部員は家族で、家族の健康と幸せより大事なことなんてない」という言葉によって、仕事の繋がり以上の大切な仲間という意識が生まれている。また、部員のDE&Iへの関心や実感も高まり、アンテナがより敏感に張られていると感じる。

 

二つ目は、会社に対する誇りやロイヤリティが向上すること。

大きな壁を乗り越えてでも、自分の好きな仕事・組織・会社に残りたいという大島さんの思いと覚悟は、個々人の会社や仕事への向き合いを改めて問い、自分自身背筋が伸びる思いがした。

管理職として部員が心身の負担なく働ける環境のために、できることは先回りして全てやるという菅本さんの姿勢には、ここまで自分たちのことを考えてくれる人がいることに感動を覚えた。

そして、普段直接関わることは少ないが、社員の働きやすさファーストで、システムやルールの制限の中で、いかに多様な社員の働きやすさを実現できるか?と日々模索している人事・総務の湯川さん・神尾さんの存在を知ることができ、「会社には自分が見えない場所にもたくさんの味方がいる。」という安心感につながった。様々な観点から、会社を改めて見直すきっかけとなった。

 

三つ目は、社・グループ全体の意識改革が進んでいること。今回大島さんと菅本さんが積極的に社内外へ顔と実名を出して登壇・取材協力を行ってくれているということも大きいが、「実際に身近にいる。」ということがリアリティをもって伝えられている。菅本さん中心に社内でのLGBTQ+相談コミュニティが立ち上がるなど草の根的な活動もあり、社・グループ全体に意識が浸透していることを感じる。

 

当事者にとって働きやすい会社は、みんなにとって働きやすい会社。言葉にすると至極当たり前に聞こえるが、今回のケースを通して、当事者、そして周囲・会社全体へのポジティブなインパクトを、身をもって実感できた。

今回取材協力をしてくれた大島さん、菅本さん、湯川さん、神尾さんからのメッセージが、現在進行形で葛藤や不安を抱える当事者、様々な社員とどう向き合うべきか悩みを抱える管理職、より社員の働きやすい環境について模索する人事・総務、そして、その周囲で働くすべての人にとって、前に進むきっかけになることを願ってやまない。

取材・文: 岸本かほり
Reporting and Statement: kahorikishimoto

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