チームが強くなる!高信頼性組織とは。東京大学 熊谷晋一郎先生から学んだこと
- 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント
- 高田愛
7月9日、電通本社1階ホールで開催された「第5回こころのバリアフリーセミナー」。東京大学 先端科学技術研究センター 当事者研究分野 熊谷晋一郎准教授と共に考える「個人成長と組織成長の両立」「リーダーシップとメンバーシップ」について学びました。
登壇した熊谷晋一郎先生は、生後間もなく脳性麻痺により手足が不自由となり、現在は、電動車いすを使って生活されています。小学校から高校まで普通学校へ通い、東京大学医学部卒業後、小児科医として10年間病院に勤務。現在は、障害と社会の関わりを研究する「当事者研究」に従事されています。
失敗を許さない組織は、組織成長が止まる!?
ここで、熊谷先生の経験から鉄板のエピソードが語られます。「小児研修医1年目の仕事は、まず採血から始まります。しかし、考えてみてください。障害のある医者が、かわいいわが子に採血をしようとしている。親御さんは、睨みつけるように(不安げに)そのさまを見ている状況での採血。完全にアウェーです。あらゆる採血のマニュアルは読みつくし、一人で採血できる機械“ひとりで採決できるもん”も開発しました。同僚や自分での練習ではうまくいくのに、本番では一度もうまくいきません。体にカビが生えるくらい免疫力が下がり、追い詰められていました。もう、医者を辞めるべきなのでは……と思った時、破れかぶれで、もの凄く忙しい病院に異動を決めました。」とのこと。
話は続く『もっと、不適応になるのではないかと思いきや、逆で、そこは、全員が自分一人では仕事を回せないことを熟知している現場でした。ついた上司に「当直してもらうには、採血をできるようになること。今日から採血1000本ノックだ!」と言われ、手が震えているのに、有無を言わさず、赤ちゃんはどんどん運ばれてきます。躊躇している僕の耳元で、上司が囁いたのは「勘だよ勘。僕だってわからないんだ。ブスッと行きなさい。ブスッと。何かあったら俺が責任は取るから」という言葉でした。その言葉で肩の力が抜けて、生まれて初めて、ぷにぷにの赤ちゃんから採血に成功することができました。初めて当直をこなした朝のコーヒーの味は忘れられないです。
医療現場は、常に訴訟リスクを孕んでいます。研修医は、失敗というリスクを取っていかないと上達していきません。失敗は、資源ですよね。失敗の権利を、系統的に奪われていくと学習が停止してしまいます。失敗の権利を、初心者に与えていくのに必要なのは、リーダーシップですよね。』とのこと。
「何かあったら責任を取るから」と、なかなか言えなくなった昨今。一人の失敗が、病院全体の存続にかかわる現場でも、人を育て、組織としても強くなるためにリスクを引き受けるリーダーシップが存在することに胸が熱くなりました。
「トレーニングしてから現場へ」ではなく、「まず現場に出てからサポートする」のが正解。
(Train&Place⇒Place&Support)
特に育成に関わるものにとっては、耳の痛い話なのがこちら。イギリスの研究結果より、障害者就労の現場で、昔はTrain&Place主流でした。Train&PlaceとPlace&Supportのどちらが効果があるかというと、圧倒的にPlace&Supportのほうが、働いた後のパフォーマンスも、本人の満足度も定着率も高まるという根拠が出て、パラダイムチェンジが起こりました。
しかしながら、それでも現場はTrain&Placeから脱却できないでいました。何故でしょう?なんと、医者も含めた就労支援の専門家の悲観主義によって、Train&Placeに固執していることがわかったのです。そこで、就労支援の予算を、支援者のマインドセットすることに投じたら、就労定着率が6倍に伸びたとのこと。
これは、障害者就労に限った話ではなく、一般的にも想定できます。最小限のアセスメントのあと、現場に出してみて、課題にぶつかるタイミングでサポートをすることがパフォーマンスや定着率を上げる秘訣となりそうです。実際、医療現場でもTrainが肥大化して行くことによって、成長できなくなることが医療現場でも起こっているらしい。一気に詰め込む方が、インプットする側は楽だけど、適切なタイミングでのサポート体制の構築が、ミソになって来そうです。
組織を強くする高信頼性組織って、なんだろう?
救急医療や原子力潜水艦など、失敗が大事故につながる現場で実践されている「高信頼性組織」。それは、大きな組織の中で、どう個人の能力を拡張させていくかに通じるヒントが多く含まれていました。一人の失敗が、社会に対しても組織全体にも大きなダメージが及ぶ組織では、トカゲのしっぽ切りが不可能。失敗も学習資源だと考えています。
高信頼性組織に共通する3つの条件
- 思い込みをアップデートする態度で臨む
- 思い込みと矛盾する情報でも
- 失敗を減らしたければ、失敗を責めない文化。
失敗した時の3つの責任
- 誰かのせいにしない責任
- 自分の失敗を報告する責任
- 失敗を自然現象のように研究する責任
組織としても、失敗を責めない文化を作り、失敗した個人も、失敗しっぱなしでいいわけではなく、自分の失敗を報告し、失敗を自然現象のように研究する責任はあるのですね。
反省の仕方には2種類ある。いい反省の仕方って?
Ruminationではなく、Reflectionで!
◆Rumination:犯人捜しの発想で反省すること
◆Reflection:自然現象の原因を研究する態度で振り返ること
例えば、仕事などで失敗をしてしまった時、皆さんはどうなりますか?私は、Rumination(反芻)してしまうタイプです。あの時、ああ言えばよかった。とか、あんな準備をしておけばよかった。とか、もうその瞬間に戻ることはできないのに、よく、「バカバカバカ~ン」となってしまいます(笑)自分に注意を向けることは、生きやすさにつながる場合と、生きにくさにつながる場合があるとのこと。犯人捜しの発想でRuminationするのではなく、なぜそれが起きたのかを、研究する態度でReflectionすることが大切です。くよくよしていても仕方がないですからね。
リーダーの自己開示がクリエーティビティーに直結する!?
最後に、熊谷先生と2020プロデュースセンターの谷昭輝さんの対談がありました。谷さんは、チームマネジメントをする立場であり、奥様がパラリンピアンかつ、ちいさなお子さまの育児にも奮闘されています。二人の会話の中で、最も印象に残ったのは、こちら。
谷さん:『部員には、迷惑をかけるのを承知で、「すみません。うちの奥さん2週間海外遠征でいません。なので、17:30に会社を出ます。」って、先ず言うようにしている。むしろ、みんなを頼らないとできないので、自分が回っていないから、勝手に言っているんですけど。正直(今は)、自分が一生懸命働くよりも、奥さんが来年大会に出る方が、世の中のためだと思って割り切っている。すると、自分の気持ちが、楽になるから。」
熊谷先生:「まさに、 Humble leadershipですよね。 Humble leadership とは、カリスマから降りて、人間なんだから得意不得意があるということを、率先して開示するリーダーのこと。これが、社員のクリエーティビティーにダイレクトに影響するのは、かなり確実。なぜかというと、そのリーダーの姿がモデルになり、心理的安全性が高まるからではないか。と言われています。」
完ぺきではないことを、リーダー自ら自己開示することで、会社だけでなく家族というチームでも、高いパフォーマンスを出そうと実践されている方がいるのは、学びが多かったです。
クリエーティビティーの高い組織を作っていくためには
障害をきっかけに、チームビルディングに有益なお話しを伺えました。リーダーはHumble leadershipを、メンバーはRuminationからReflectionへのシフトを、いっせーのせでやることが大事と、具体的なイメージもできました。その中でも、キーとなるのは、リーダーのhumbleな態度かもしれませんね。
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熊谷晋一郎氏
東京大学 先端科学技術研究センター准教授バリアフリー支援室長
1977年山口県生まれ。生後間もなく脳性麻痺により手足が不自由となる。
小学校から高校まで普通学校へ通い、東京大学医学部卒業後、小児科医として10年間病院に勤務。
現在は、障害と社会の関わりを研究する「当事者研究」に従事する。
モデレーター:谷昭輝氏
(株)電通 2020プロデュースセンター アクティベーションプランニング部 ストラテジックプランナー
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