編集部が行く!パラスポーツ観戦記_vol.10 パラ・パワーリフティング
- メディアプランナー
- 八木まどか
2月1日(土)~2月2日(日)、八王子市の日本工学院八王子専門学校にて、第20回全日本パラ・パワーリフティング国際招待選手選手権大会が行われました。
パラ・パワーリフティングは、下肢障害と低身長の選手が対象のベンチプレス種目。そして、使う筋肉は胸・肩・三頭筋・腕力だけ!
(私も定期的にウエイトトレーニングをしていますが、ベンチプレスって腹筋や下半身もすごく使うんですよね。胸や腕の筋肉しか使えないなんて…!)
ですが、最重量級の選手であるラーマン選手(イラン)が持つ記録はなんと310㎏!これはほぼ同等の条件における健常の選手の記録を超えています。そんな驚きポイント満載のパラ・パワーリフティングに初めて観戦に行きました。
なお、東京2020大会には各階級で最大1名ずつ出場でき、2つの条件(①IPC公認大会における指定記録の突破②出場必須大会の出場)を満たしたうえで、2020年4月23日時点の東京2020パラランキングで、男子8位以内、女子8位以内に入っていれば、やっと出場権が与えられます。
今大会はIPC公認大会であるため、まだ記録を突破できていない選手にとっては大事な大会でした。
今大会の運営には、日本工学院八王子専門学校の学生の手厚い協力がありました。ここでの開催は2回目で、学校内の講堂をステージ化し、競技運営だけでなく様々な取り組みをしていました。会場案内、受付はもちろん、MCや配布資料の作成も学生がしたそうです。また今大会の様子はスポーツ観戦アプリ「player!」でリアルタイム配信。この投稿でも学生たちが協力していました。
スポーツ観戦アプリ「player!」
驚きがたくさん!パラ・パワーリフティングの世界
試合の流れを先に説明しましょう。まず選手は舞台に入場しベンチ台へ身体を移し、足にベルトを巻いて体を固定します。
準備ができたらバーを持ち、腕を伸ばします。主審の合図がかかったら、試技開始。胸までバーを下げ、ピタッと止めた後、押し上げます。入場~競技開始までの制限時間は2分を超えたら失敗。選手によって様々な時間の使い方も見どころの一つです。全部で3回チャレンジでき、その日のコンディションやライバルの調子を見て、次にどの重さを選ぶか作戦を立てるのも勝負所です。
本大会からシニアとして出場する松崎泰治選手は若手のエース
パラ・パワーリフティングの大きな特徴が「美しさ」がシビアに求められる、ということです。
審判3人がそれぞれ、成功(Good Lift)=「白」、失敗(No Lift)=「赤」を判断し、白が2人以上なら「成功」、赤が2人以上なら「失敗」の判定となります。
失敗の場合は、その理由も色によって表示されます。
・紫=体の位置
選手が試技中に同じ姿勢を保てなかった、など7項目
・オレンジ=バーコントロール
バーをコントロールして胸に下ろせなかった(落下するような下ろし方はダメ)、
など6項目
・青=胸上
胸でバーが止まっていない、など5項目
・緑=押し上げ時
バーを押せなかった、など6項目
判定結果は色で表示
ですので、最初のうちは「なぜあれが失敗?」と理由がわかりづらいのですが、慣れてくると「これはいけたのではないか…」と祈りながら判定を待つ数秒間がハラハラし、判定が出た瞬間の選手のガッツポーズを一緒に喜べたりします。
エンターテイメントショーを観ているような楽しさ!
さて、この日は大会2日目。地元の高校生のダンスショーで会場をあたためた後、解説のお二人の掛け合いで試合へのワクワクを高めます。
観客と選手の距離が近いため、会場が一体となって応援したり、一喜一憂したりできるのも楽しかったポイントの一つ。つねに「いけいけ!」「がんばれー!」といった応援の声が飛び交うほか、「イケメンだぞー!」など思わず選手が笑ってしまうような声がけも。
ジュニア日本新記録を出した、大宅心季選手
80㎏級で優勝した宇城元選手は3回の試技すべて成功!
3秒の勝負
私が最も印象に残ったのは、65㎏級の試合でした。日本新記録を狙う場合は、4回目の試技を挑戦することができます。65㎏級では、139㎏を成功させた佐野義貴選手が優勝を決めていましたが、2位の奥山一輝選手、佐野選手ともに日本新記録をかけて4回目のチャレンジを決意。佐野選手のほうが試技は先で140.5㎏に挑戦しました。
すでに優勝を決めている佐野義貴選手
これは惜しくも失敗の判定。
続いて奥山選手は141kgを挑戦。これを成功すれば、順位は2位ですが日本新記録を達成します。
集中力をMAXに高め・・・
今大会から65級に階級を上げ東京2020出場を目指す奥山一輝選手
きれいにあがった!判定はいかに…
成功!
解説によると、パワーリフティングの難しさの一つに、「自分のリミッターを外す」「恐怖心を外す」という自分との戦いがあります。重いのはもちろん苦しい。でも上げられなかったらまた1年間苦しむのか…という心身ともにせめぎ合いがあるとのこと。そんな時、セコンドのサポートによって、リミッターが外せることもあるそうです。
オール白判定で成功を決め、セコンドと握手する鈴木明彦選手
バーを上げるまではたった3秒ほど。この3秒のために、何年も何回も練習を重ねると思うと、その精神力は並大抵のものではありません。
そして、その緊迫感が一気にとけるが、成功の判定が出た時。観客も、そんな凝縮された瞬間に引き込まれ、選手と一体となり喜ぶことができるのでしょう。
パラリンピック本番も注目!
今回は出場していませんでしたが、大堂秀樹選手(88㎏級、リオパラリンピック8位)など東京2020パラリンピックでも活躍が期待される選手が複数いる日本勢。本番は8/27~31東京国際フォーラムで開催します。
ぜひご注目ください!
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