みんスポ・ソーシャルドリンクスVol.10–コミュニティの中でのスポーツを考える
- 共同執筆
- ココカラー編集部
ゲストスピーカーによる「おもしろそう」な実践事例ヒントに、ゆるく飲みながら、みんなのスポーツ(みんスポ)を広げるためのアイデアを語りあう「みんスポ・ソーシャルドリンクス」。第10回目は「コミュニティの中でスポーツが活躍する!」をテーマに、NPO法人モンキーマジック代表の小林幸一郎さん、一般社団法人鬼ごっこ協会・国際スポーツ鬼ごっこ連盟事務局長の平峯佑志さん、総合型スポーツクラブ「きゅぽらスポーツコミュニティ」代表・一般社団法人日本コムスポーツ協会代表理事の石井邦知さんの3人をゲストに開催されました。
<「見えない壁」だって超えられる>
一人目のゲストは、NPO法人モンキーマジック代表の小林幸一郎さん。そもそも、運動が苦手で「速ければいい、勝てばいい」というスポーツの固定的な考え方に賛同できなかった小林さんが高校時代に出会ったのが、自然の岩に、自分の目標と自分の力で、速さも他人と比べる必要もなく挑むクライミングです。28歳で「網膜色素変性症」という目の難病が発覚し、「将来失明する」と医師から告知を受けた後、2005年に、小林さんは視覚障害者を始めとする人々の可能性を大きく広げることを目的に活動する「NPO法人モンキーマジック」を立ち上げました。
「障害者には危ない」と諦められてしまう壁を超えて岩を登れた時に、人は新しい自信や可能性を持つことができる。クライミングには、障害や年齢の壁を越え、みんなで楽しめるスポーツとしての可能性を秘めているとの想いからです。
2014年の世界選手権では視覚障害クライミングの競技者として金メダリストとなった小林さんですが、モンキーマジックの普及には多くの苦労もありました。「クライミングは危険」というイメージがあるからです。クライミングは、自分のペースで地上からゴールまでシンプルに登るだけのスポーツ。目が見えなくても耳が聞こえなくても、片手がなくても、お年寄りでも、思いっきり身体を動かせる安全なスポーツだということを広く理解してもらうことが必要でした。
(NPO法人モンキーマジック小林さん)
そこで活動の中心においたのがイベントの実施です。当初は障害者を中心に開催していましたが、一般の人も交えた交流型イベントへと変化することで、クライミングというスポーツの可能性をさらに広げるものになりました。クライミングの中で障害があってもなくてもみんなが楽しめるのなら、みんなで応援し合って楽しんでという状態が、一般の社会の中でも広がっていけるのではないか。今クライミングで起きていることは、あるべき社会の縮図ではないか。そのような多様性を認め合えるユニバーサルな社会がクライミングなのではないかと強く思うようになったそうです。
(クライミングの後の「飲み会」も大切なコミュニケーションの場)
クライミングやその後の交流会を通じて知らない人同士がコミュニケーションを促進できるのも、モンキーマジックの活動の魅力。例えば参加者は「ハイボール、ピッチャーで」という手話ができるようになったりもするという例に、会場は爆笑の渦に包まれ「見えない壁だって超えられる」瞬間を、参加者の皆さんが実感したひと時でした。
<「楽しめる」ことが参加につながる>
続いての登壇は一般社団法人鬼ごっこ協会の平峯佑志さん。平峯さんは大学在学中に鬼ごっこの普及活動に出会い、その後、協会の設立に参画されました。 協会のビジョンは、「鬼ごっこのある町づくり」。老若男女誰でも参加でき、しかも子どもが鬼ごっこする姿を大人が見守る姿に平和な世界を実感するという平峯さん。スポーツ振興、地域振興、文化振興の3つの軸で、スポーツ鬼ごっこを世界中に広めていけたらと活動を展開しています。
鬼ごっこは1,300年前から日本にあるとされている遊びですが、スポーツ鬼ごっこは、スポーツ鬼ごっこ協会を設立した羽崎泰男氏が開発した新しいスポーツです。テレビゲームの流行で子どもの運動能力低下が課題とされる中、テレビゲームに対抗できる、戦略性のある、コミュニケーションやチームワークが大切なおもしろい遊びを子どもたちに提唱しようと、普及活動が始まりました。実際に厚生省の依頼で1年間、血液年齢が60才といわれた子どもにスポーツ鬼ごっこのプログラムを行ったところ、通常の血液年齢に戻ったというデータも得られたそうです。
(一般社団法人鬼ごっこ協会の平峯さん)
スポーツ鬼ごっこで力を入れているのは「楽しめること」。「お互いを尊重してプレイする」「勇気を持つこと」「あきらめずに最後まで一生懸命する」といったことを通じて、子どもたちが苦手なルールを学ぶこともできるといいます。
遊び感覚でスポーツを楽しみながら、周囲の横と縦のつながりをつくっていけるのが、スッポーツ鬼ごっこ。現在の活動をさらに発展させ、子どもだけではなく、障害者、老若男女を問わず参加できるようにしていくのが、平峯さんの挑戦です。スポーツ鬼ごっこをするための指導者ライセンス講習にも力をいれている他、今では都道府県大会や全国大会、年齢別など大会の幅も広がっているとのこと。
(さまざまな場でスポーツ鬼ごっこを展開)
今後は海外への普及を目指し、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、スポーツ鬼ごっこの存在を海外にアピールしていきたいそうです。「いろいろなジャンルの方と協力しながら、日本のスポーツの発展向上に貢献したい」と、平峯さんから熱いメッセージがありました。
<多世代交流がおもしろい>
続いての登壇は、総合型地域スポーツクラブ「きゅぽらスポーツコミュニティ」一般社団法人日本コムスポーツ協会代表理事の石井邦知さん。
(一般社団法人コムスポーツ協会の石井さん)
石井さんが「きゅぽらスポーツコミュニティ」を立ち上げたのは、個人型スポーツが地域で流行っている一方で、地域のつながりが希薄になっている現状に矛盾を、チームスポーツの普及で解消できないかという思いからでした。現在4歳から60歳までと幅広い年齢が所属するクラブ。多世代同士が交流できることを意識し、いろいろなスポーツを実施しているのが特徴です。人が集まれば、特定の種目から複数の種目への参加機会が増えるし、多世代や障害のある人にもできる新しいスポーツのアイデアも出てくるのがおもしろいところです。
活動の拠点となっている川口市は都心への通勤エリア。会社から、ただ寝るために帰ってきているだけの人も多く、コミュニティとの関わりが希薄と言われています。そこで、「コミュニティ」の最初の接点としてアクセスしてもらうのがこのスポーツクラブであってほしいと、石井さんは語ります。メジャースポーツのように、大会があるわけではないので、継続するモチベーションをどう維持するかが当初は課題でした。けれども今は、メンバーの間に、「複数種目が体験できる」「新しいつながりができる」「周囲の人たちも楽しめるから自分も楽しい」といった相乗効果が生まれているそうです。
(誰でも楽しく楽しめるような柔軟さも魅力)
最近は少子高齢化が進んで、若年層が地域に貢献する機会も減っていますが、若い人が参加するにあたり、例え同世代がいなくても、回数を重ねて交流することで、参加者の間に自然とつながりが深まっていきます。また、チームワークを深めるような取り組みを各人に委ねると、主体性がうまれたり、新しいアイデアがうまれたりすることもあります。さらに、限られたスペースで何ができるかをあきらめないで考えれば、また新しいスポーツがうまれます。
「これがコミュニティではないでしょうか」と石井さんは語ります。コミュニティにスポーツを絡めることで、多世代交流が楽しめて、個人の考え方を発信できたり、人をつなげたりできる。それがスポーツの力という、石井さんのメッセージでした。
<人と人とがコミュニケーションできる緩さを持つ>
スポーツというと、危険を伴うための対策措置が必要だったり、厳密なルールの元に行われなければいけないから、障害者の参加は難しい、という風にどうしても考えられがちです。しかし、障害者を含め、性別年齢を超えて、みんなでスポーツを行うことは可能だということを、ゲストのみなさんの活動から知ることができました。
全体セッションでは、会場から「どうやったら多様な人たちが一緒に参加できるのか」という質問がありました。これに対し小林さんは「適当にやるということが大事」と回答。こういう「緩さ」が人と人をつなげ、多様性を認め合えるキーワードになるのかもしれません。「他人に勝つこと」ではない、コミュニケーションができる余地を残した新しいスポーツの形が、ますます広がっていっているという実感を、会場のみなさんも感じられたようです。
最後に、会場に集まった方々に感想を聞いてみました。
「他の障害者スポーツ団体の話をきいて、いろいろなアプローチがあることを知りました。つながりがまたひろがりそう」「各団体ができないことを補完し合えれば協力の輪が広がるのでは。ビジョンをもって、行動することが大切だと感じました」(長年一緒に活動してきたけれど、写真に一緒におさまるのは今回が始めてというバルドラール浦安の泉洋史さん(左)と、公益財団法人日本ケアフィット教育機構の佐藤雄一郎さん(右))
「いろいろな団体があって、いろいろな見方があって、とても勉強になりました。新しい世界に飛び込んだようです」(このイベントの存在に気づいて、一人で急遽参加した多田さん)
参考:
・「視覚障害者といっしょにフリークライミング。見えてきたことは?」
・「究極の普遍的スポーツ?!「鬼ごっこ」のポテンシャルを追え」
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